心筋症

猫の心筋症には肥大型心筋症以外に、拡張型心筋症、拘束型心筋症、不整脈源性右室心筋症、過剰調節帯型心筋症、分類不能型心筋症があります(細かい規定や分類は今後変わっていく可能性があります)。
このうち拡張型心筋症と拘束型心筋症の発症は肥大型心筋症に次いで多いとされていますが、その他の心筋症は比較的に稀と言われています。
どの心筋症についても、心筋や心内膜の異常により心臓の広がる力(拡張能)や心臓が縮まる力(収縮能)が次第に弱まり、心臓は血液をうまく循環させることが出来なくなり呼吸困難や元気消失、食欲不振などの症状を示します。

 

〈正常な心臓〉

 

 

〈拡張型心筋症〉

 

〈拘束型心筋症〉

 

原因

拡張型心筋症は以前、食事に『タウリン』という成分が不足して起こり、猫の心臓病では最多の疾患でした。現在は栄養学の発達により市販食にも十分なタウリンが含有されており、栄養性に起こることは稀となり原因の特定が難しい場合が多くなりました。
他の心筋症についても、一部生まれつきの心臓の構造が一因となるものもありますが、炎症や遺伝的な要素など疑われる因子はあっても原因について詳細は分かっていません。

好発品種

特別な好発品種はありません。

症状

初期には目立った症状は認められません。
元気消失、食欲不振などあまり特徴的でない症状のみの場合もありますが、血液がうまく循環しないことで呼吸困難(肺水腫、胸水貯留)、お腹が膨らんでくる(腹水貯留)などの症状がみられる場合もあります。
循環不全が重度の場合や、不整脈を併発している場合には失神や突然死などがみられることもあります。
血液の流れが悪くなると血液の塊(血栓)が出来やすくなり、それが詰まることで後ろ足が動かなくなる(大動脈血栓塞栓症)が起こることもあります。

治療

現在はタウリン欠乏単独で異常が出ている場合は稀であり、心筋症が根治できることはほぼありません。治療は症状を緩和し、少しでも生活の質を維持するために行います。
呼吸がすでに苦しい場合には酸素吸入や利尿薬を用い、胸水が貯留している場合には胸水を抜きます。
症状の緩和・改善、状態の維持のため利尿薬や強心薬、血管拡張薬などのお薬を使用します。また、不整脈がある場合には抗不整脈薬を使う場合もあります。
定期的な胸水や腹水の抜去が必要になる場合もあります。

見通し

心筋症の種類によって報告上の生存中央期間は異なります。しかし、実際の病気の見通しは心筋症の種類に加え、呼吸困難などの心不全症状や大動脈血栓塞栓症などの重度の症状が出ているかで変わると考えられています。一般的に病院に来る段階では呼吸困難などの心不全症状を呈している場合が多く、生存中央期間が数日〜数ヶ月と報告されているものもあり、非常に厳しいものとなっています。

予防

残念ながらこの病気自体を予防することはできません。
初期に明らかな症状がないため、早期発見は難しい病気でもあります。
無症状でも心筋症は否定できないことから、1年に1回は、定期検査をお勧めします。

この記事を書いた人

荻野 直孝(獣医師)
動物とご家族のため日々丁寧な診療と分かりやすい説明を心がけています。日本獣医輸血研究会で動物の正しい献血・輸血の知識を日本全国に広めるために講演、書籍執筆など活動中。3児の父で休日はいつも子供たちに揉まれて育児に奮闘している。趣味はダイビング、スキーと意外とアクティブ。