命を落とすこともある怖い病気、犬や猫の尿管結石について解説します

尿管結石とは

腎臓で作られた尿は、尿管(腎臓と膀胱を繋ぐ管)を通り膀胱に貯留され、尿道を通して体外に排出されます。この経路を尿路と呼びます。尿路の中のどこでも結石ができる可能性があり、その中でも尿管に結石がある状態を尿管結石と呼びます。そのほかの尿路結石については別でコンテンツ(コチラ)がありますので、そちらをご覧ください。

尿管以外の腎臓は左右に2つあるため、尿管も2本存在します。結石は、この2本両方に存在することもあれば、片方のみに存在することもあります。

尿管結石は、腎臓・膀胱・尿道の結石に比べると発症は少ないですが、尿管に結石が存在することで、腎臓から膀胱へ尿が通りにくくなったり、完全に通らなくなってしまうことがあります。尿が完全に通らなくなってしまうと、腎臓が拡張してしまう水腎症という病気になる可能性もあります。

 

原因

1、尿量減少

飲水量が減少したり脱水状態になることで、濃い尿が長時間尿路に留まることにより尿中に含まれるミネラル成分の結石形成が促進されます。

2、尿中のミネラル量増加

結石の原因となるミネラル成分を多く含むごはんやおやつを過剰に食べることで、尿中のミネラル量も多くなり、結石形成の原因となります。

3、pHの偏り

尿管結石においてよく認められるシュウ酸カルシウムは、ほかの結石に比べるとpHの影響を強く受けることはありませんが、酸性尿においてやや認められる傾向があります。

 

好発品種

猫の尿管結石のうち98%はシュウ酸カルシウムであったとの報告があり、犬においてもシュウ酸カルシウムの確率のほうが高いとされています。シュウ酸カルシウム結石の好発品種としては、以下の通りです。

犬:ミニチュア・シュナウザー、シーズー、チワワ、トイプードル、ポメラニアンなど

猫:スコティッシュフォールド、マンチカン、アメリカンショートヘア、ロシアンブルーなど

 

症状

尿管結石の症状は無症状であったり、元気や食欲がなくなる、嘔吐などの他の病気でも見られるものですが、稀に排尿時の痛みや血尿、頻尿などが見られます。

片方の尿管が、結石によって狭くなっていたり詰まってしまっている場合は、もう一方の尿管から尿が出るので体調の変化などに気が付きにくいですが、両方の尿管が詰まってしまうと、尿が排泄できなくなり本来排泄されるべき老廃物や毒素が全身に回ってしまう尿毒症と呼ばれる症状を引き起こします。尿毒症が重度になると痙攣などの神経症状を引き起こし命の危険性もあるため、尿管が詰まってしまった場合は直ちに治療が必要になります。

 

診断

基本的には身体検査と血液検査、尿検査、お腹の超音波・レントゲン検査、可能であればC T検査も行います。

身体検査:お腹の触診をした時に痛がったり、脱水、口臭などが認められます。

血液検査:主に腎臓がどの程度ダメージを受けているかを調べます。

尿検査:血尿、細菌の感染、結晶の有無を調べます。

超音波検査:尿管が結石によって詰まってしまっていた場合、拡張した尿管や腎臓を確認できます。

レントゲン検査:結石の存在を確認することができます。

赤い〇が結石になります。

C T検査:レントゲン検査で発見できない小さい結石の存在を確認することができます。

 

治療

尿管が詰まっておらず緊急性のない場合は輸液や薬剤などの内科的治療を行うこともありますが、詰まってしまっている場合や内科的治療に反応しない場合は外科的治療が必要になります。

外科的治療としては結石の位置や個数、腎結石(腎臓に存在する結石)の有無などを考慮して「尿管切開術」「尿管膀胱新吻合術」「皮下尿管バイパス術(SUBシステム)」といった複数の方法から選択します。

「尿管切開術」は、結石が腎臓側に存在し尿管の組織が変化(­線維化)してない場合に適用となり尿管を切開して結石を取り出します。犬では、猫に比べて線維化を起こしにくく、結石が大きいこともあり尿管が太く拡張している場合が多いのでこの術式で対応できることが多いです。

「尿管膀胱吻合術」は、結石が膀胱近くに存在する場合と小型の動物で尿管が細い場合に適用となります。結石の詰まっている部分の尿管を切除して、残った尿管を膀胱に直接つなげます。

「皮下尿管バイパス術(SUBシステム)」は、麻酔リスクが高かったり、腎結石が多く存在する場合などに適用し、本来存在する尿管を使用せずに人工の尿管を腎臓から皮下(皮膚と筋肉の間)を通り、膀胱につなげ、その人工尿管を通って尿を膀胱に送ります。

 

また、尿管の手術へ持っていくまでの一時的な回避策として皮膚から腎臓に針を刺して尿の通り道を確保する腎瘻チューブというものもあります。腎瘻チューブは、尿管の手術後に腎臓の負担を軽減するためにも用いられます。

尿管の手術で取り出した結石は、分析を行うことで今後の治療方針を決定することもあります。

 

予防

1、食事管理

尿石の形成を防ぐために、食事やおやつに含まれる尿石の原因となる成分の摂取を極力減らして体内環境を改善することが必要です。結石がある場合には、結石の種類に適した療法食を使用することが望ましいです。

また、猫においては肥満との関連性が指摘されているため、体重管理も大事になってきます。

2、結石形成の要因となる異常

シュウ酸カルシウム結石は、高カルシウム血症が原因となることがあります。血液検査などでカルシウムが高い場合は原因を早い段階で診断して、治療しておきましょう。

3、飲水量を増やす

飲水量を増やすことで、濃い尿が長時間止まらないようにすることが大事です。飲水量を増やすためには水の置き場所や数、温度などを変更してその子の好みに合わせる工夫も必要です。場合によっては、水に味を付けたりドライフードからウェットフードに変更することも選択肢の一つです。

4、トイレ環境の整備

尿が長時間体内に止まることを防ぐためにも、排尿を我慢させないようにしましょう。そのためには、排尿環境の整備が大切です。特に猫の場合は、トイレ環境に神経質な子が多いため、トイレの場所や個数、砂の種類などその子に合ったトイレ環境を整備してあげましょう。詳しくはコチラもご参照ください。

 

 

尿管結石は、早期だとわかりやすい症状が現れにくく、ご家族が気付けないケースも多いです。早期に発見して治療するためにも定期的な検診を行っていきましょう。

 

この記事を書いた人

海野 広夢(獣医師)
一人一人に寄り添った診療ができるようご家族様の話に耳を傾け、お気持ちを汲み取れるように心がけています。外科、救急医療分野の技術向上のため多くのセミナーを受講し、腕を磨いている。趣味はバイオリンと映画鑑賞。アクションやSFが好きでスターウォーズのダースモール推し。