人とは違うの?犬や猫、動物それぞれの歯の違い

[歯の種類や目的]

歯は口の中で食べ物をかみ砕き、すり潰すという役割があります。咀嚼は脳に刺激を与えて身体のバランスを保つなど、全身の健康にも大きく影響しています。また、発音にも関与しており会話を行う上で大切な役割を持っています。

歯の構造ですが、大きく2つに歯の上部の「歯冠」と歯の下部の「歯根」に分けられます。また、歯冠部はエナメル質歯根部はセメント質で覆われているのが特徴です。

エナメル質は、体を構成する組織の中で最も硬い組織で、水晶と同じくらいの硬さがあります。エナメル質自体は透明感のある白色ですが、その下にある象牙質が黄色っぽい色をしているため黄色っぽく見えます。熱や電気等の刺激を通しにくいため、外部からの刺激から歯の神経である歯髄を守る役割を担っています。

象牙質は、エナメル質・セメント質の下にある組織で、歯の大部分を占めます。エナメル質より軟らかく虫歯になりやすいため、象牙質まで虫歯が進行すると急速に進行します。虫歯が歯髄に近づくほど痛みが出やすくなります。象牙質では、僅かですが歯髄側に再生能力があり、歯髄を保護する働きがあります。

セメント質は、歯根の表面を覆っている非常に薄く象牙質よりさらに軟らかい組織です。歯周病などで歯肉が下がってしまいセメント質が露出してしまうと、虫歯になりやすいので注意が必要です。歯根とあごの骨を繋ぐ組織である歯根膜を繋ぎとめる役割があります。

歯髄は歯の神経であり、歯の痛みは主にこの歯髄で感じています。歯髄には冷たい熱いといった温度感覚等がないため、刺激は全て痛みとして感じます。また、歯髄には神経の他に末梢の動脈・静脈・リンパ管も一緒に存在しており、歯への栄養供給も担っています。そのため、歯髄を失った歯は脆くなり、歯の寿命が短くなってしまいます。また、痛みを感じなくなるために虫歯が進行しても気づかないことが多々あります。

 

次に歯の種類です。大きく分けて「切歯」「犬歯」「臼歯」に分けられます。

切歯は歯列の一番前にあり、食べ物を噛み切り口の中へ取り込む役割があります。形状としてはシャベルのような形をしているのが特徴です。

犬歯は切歯の隣に位置し、食べ物に食いついて切り裂く役割があります。歯根部に埋まっている歯が最も長いというのも特徴の一つです。形状としては先端が突出し尖った形をしています。

臼歯は前臼歯(小臼歯)と後臼歯(大臼歯)とに分けられ、切歯で噛みやすいよう切った食べ物をすり潰し細かくして胃で消化しやすいようにする働きがあります。形状としては、臼状で平たい形をしているのが特徴です。

人と肉食動物、草食動物で歯の本数が違うのが分かります。

 

[食事内容との関連性]

動物が主に何を食べるかを示す分類には食性があり、大きく「肉食」「草食」「雑食」の3つに分けることができます。食べ物の種類や食べ方によって歯の形は様々に変化しています。

 

肉食動物の歯は肉を裂いたり骨をかみ砕いたりするために、全ての歯が鋭く尖っています。臼歯は肉を切り裂くはさみのようなかみ合わせになっており、奥の方には特に大きく尖った形をした歯があります。これを裂肉歯と言い、上あごの最後方の前臼歯と、下あごの最前方の後臼歯がかみ合わさって成り立っています。餌は何回か噛んだ後、丸のみするのが特徴です。特に犬歯がよく発達しており、敵と戦うための武器となりあごの力が非常に強いことも特徴の一つです。動物種としては猫やライオン、オオカミ等が挙げられます。

 

 

 

 

草食動物の歯は臼歯が平らになっていて溝が多くあり草をすり潰しやすくなっています。犬歯はあまり発達しておらず、ウシ等の反芻動物では上あごの切歯が無く歯茎が硬くなって上あごの歯の代わりとなります。草や葉は栄養価が低いため大量に摂取する必要があります。また、消化もしにくいことから胃や腸にも特徴がある動物種もいます。動物種としてはウシやウマ、シカ等が挙げられます。

 

 

 

 

 

雑食動物の歯は肉食動物と草食動物の歯の特徴の中間の形状をしています。切歯や犬歯は平べったくはさみのような働きをし、臼歯は臼のように食べ物をすり潰す働きがあります。動物種としては、人間や犬、サル等が挙げられます。

その他に、歯が一生伸び続ける常生歯を持つネズミやウサギ等の動物種もいます。常生歯を持つ動物の多くは歯が伸びすぎないよう硬いものを齧ったり、咀嚼運動をしたりして、歯を削って長さの調整をしています。

上記のことから、食べ物と歯の形には密接な関係があることが分かります。

 

[虫歯になりやすい人間と歯周病になりやすい犬猫]

人間は虫歯になりやすいですが、犬や猫は虫歯になりにくく、歯周病になりやすいという特徴があります。人間と犬と猫の口の中の性質が異なることが理由です。

人間の口の中は弱酸性~中性(pH=6.8~7)なのに対し、犬や猫の口の中はアルカリ性(pH=8~8.5)と大きな違いがあります。

この性質の違いにより繫殖しやすい細菌が異なり、酸性では虫歯菌が増殖しやすく、アルカリ性では歯周病菌が増殖しやすくなっています。

また、このような性質の違いは歯石が形成されるまでの速度に大きく関わっており、食事中や食後に歯に付着した歯垢が石灰化し歯石になるまでの日数は、人間で約25日間、犬では約3日間、猫では約7日間と人と比べて5~8倍もの差があります。

犬や猫の口腔内の病気やトラブルのほとんどの原因が歯石とされているので、歯石は最も気を付けるべきリスクと言えます。食後30分以内の歯磨きによって、歯面への歯垢の付着を9割抑えることができるので、日々のケアをしっかり行いましょう。

ちなみに、草食動物の牛は虫歯にはなりにくいですが、歯周病になることがあります。粗悪な飼料を与えている農場で見られることがあるそうです。

 

 

 

 

[犬猫は抜歯しても食べられるの?]

歯を抜いたら食事を摂れなくなると思っている飼い主さんが多くいらっしゃいますが、犬や猫の歯の構造の場合、問題なく食事を摂取することが可能です。

犬や猫は人間と違い、多くの歯がはさみの刃のようなかみ合わせになっています。人間のように奥歯でかみ砕き、味わって食べるのではなく、食べ物を噛み切り、ほとんど咀嚼せずに飲み込むことに適した歯の構造をしているので、歯が無くても食事に困ることはほとんどありません。

歯周病が進行している場合は食べる度に歯が揺れ、骨に響いたり、出血をする可能性もあるので、抜歯した方が生活の質の向上に繋がります。また、重度の歯周病は歯周組織である歯肉や顎の骨等を破棄し、骨折を引き起こす可能性もあります。ですので、歯周病が重度の場合は、早急に抜歯を検討する必要があります。

抜歯をしてあげることで口腔内の違和感や痛みから解放され、行動が若返ったり食欲の向上が見られるようになります。特に、歯科処置後は自宅でのケアが何よりも重要ですので、残った歯を大切にすべく毎日楽しく歯磨きを続けましょう。

この記事を書いた人

伊川 恵美加(愛玩動物看護師)
物心つく頃には動物に触れ合うことが多く、将来の夢は動物関連の仕事に就くことだった。看護師として外科の勉強や、当院をみなさまに周知してもらえるようHP等の内容を充実させることに奮闘中。また、シニア猫との暮らしの経験からシニアになってもより良い生活をできるようお手伝いしております。フェレット大好き、フェレット仲間募集中!