膵炎をご存知ですか?犬や猫の怖い病気の一つ<膵炎>を解説します。

膵炎という病気を知っていますか?

ヒトではお酒やたばこ、高脂肪食、胆石が膵炎の原因になることが知られていますね。そして犬や猫でも膵炎という病気になることがあります。

 

膵臓は胃の後ろ側にあります。血糖値をコントールするインスリンやグルカゴンなどのホルモン分泌を担う内分泌機能と、十二指腸へ消化酵素を分泌しタンパク質やでんぷん、脂肪などの食べ物の消化を助ける外分泌機能の働きがあります。

それぞれの消化酵素は、膵臓では働かないように保存されていますが、何らかの原因で膵臓内でも働きだしてしまい自分自身の臓器を消化してしまうことで症状が出ます。

膵炎は嘔吐や下痢、食欲不振といった消化器症状が中心ですが、重症例など様子を見すぎてしまうと命を落とすこともある危険な病気です。

さらに猫と犬でも症状の出方が異なります。それでは犬と猫の膵炎について解説していきます。

 

膵炎の症状

ヒトと同じく、犬と猫でも急性膵炎と慢性膵炎があります。

①急性膵炎

急性膵炎とは、突然発症し急性に進行する膵臓の炎症です。

急性膵炎の症状として、突如として元気がなくなる、食欲の低下、嘔吐、腹痛、下痢、震え、などが挙げられます。前足を伸ばして胸を床につけるような❝祈りの姿勢❞をとる犬もいます。

②慢性膵炎

慢性膵炎とは膵臓の線維化や萎縮など、膵臓の組織が元の状態に戻らない変化がおこることを慢性膵炎と呼びます。

慢性膵炎になっている犬で突然膵臓の炎症が激しくなることがあり、これを急性増悪(きゅうせいぞうあく)といいます。この場合は炎症の程度により症状が激しくなることがあります。

 

猫の膵炎は犬のように典型的な症状がなく、非常にわかりにくいです。

猫の膵炎の約90%は慢性膵炎と言われています。

また、構造的に膵炎だけでなく、胆管肝炎、腸炎が同時に発症する三臓器炎となることがよくあります。

あまり動かない、丸くなる、触られるのを嫌がるなどの微妙な症状が多くみられます。慢性膵炎では、糖尿病を併発することもあります。

症状だけでは見分けることが難しいかもしれません。

 

放置すると死に至る危ない病気

炎症が膵臓だけに留まらず重症化した場合、全身性の炎症疾患に発展することがあります。

消化酵素が膵臓の外に漏れ出た場合、周囲の臓器の自己消化(消化酵素により臓器のタンパク質が溶けること)が起こり、自分の体の一部を溶かしてしまうことで腹膜炎などを発症し激痛が起こります。

さらに自己消化によって産生される化学物質や炎症性サイトカインなどが血液中にのって全身の臓器へ回ると全身性炎症反応症候群(SIRS:Systemic Inflammatory Reaponse Syndrom)を起こすことで多臓器不全症候群、ショック、腎不全、播種性血管内凝固(DIC)が引き起こされて致死率が高まります。

 

膵炎になりやすい要因

肥満、高脂肪食、内分泌疾患などがあります。その他にも薬剤が要因になる場合やなりやすい犬種もあります。

あくまで要因であり、これらが原因とは限りません。原因がはっきりしていないことが多いです。

人の食べ物をあげるのはこの表からも分かる通り危険です。

以前にも鶏の唐揚げを間違えて食べてしまった翌日に膵炎で重症となった犬などもいますので、人の食べ物をあげるのはやめましょう!

 

膵炎の診断

膵炎は以下のように診断します。

血液検査や画像診断を組み合わせて、症状を見ながら診断を行います。

猫の場合は症状に乏しい場合もあり、確定診断に手術による膵臓の生検が必要となることもあります。

また、これ以外にも全身性疾患やSIRS、DICなどの合併症がないかなど止血機能を含めて全身的に検査を行います。

 

膵炎の治療

急性の膵炎では早期治療が重症化を防ぎますので膵炎の確定診断ができていなくても、膵炎が強く疑われる場合は治療を開始するのがいいと言われています。

治療の基本は入院管理による膵臓の安静化と内科的支持療法です。これをやれば確実に治る!という治療法は今のところありません。

SIRSやDICまで進行してしまうとかなり厳しい状態になってしまいます。

 

・輸液:下痢や嘔吐によって水分の喪失や炎症による全身の循環が悪くなっていることを改善するために行われます。

・輸血(低分子ヘパリン):重症度やSIRS、DICなどの合併症の有無により、止血機能を改善するために輸血や低分子ヘパリンを使用することがあります。

・抗生剤:細菌感染による炎症や膿瘍の可能性がある場合には積極的に使用します。

・消炎鎮痛剤:膵臓の炎症と痛みをコントロールするために使われます。非ステロイド系鎮痛薬NSAIDsだけでなく、長期の痛みを抑えるためオピオイド(麻薬性鎮痛薬)を使用するケースもあります。

・吐き気止め:嘔吐は体力と水分を大きく奪っていくので吐き気を止めるために使用します。

・タンパク質分解阻害酵素:急性膵炎からの回復後に再発を予防するために使用されます。消化酵素の働きを阻害して膵液から膵臓を守ります。

・下痢止め:下痢の症状に対して、下痢止めやプロ・バイオティクスも使います。

 

近年、初期の膵炎に効果のある新薬が発売されました。

初期に使用することで重症化を防ぐ効果があると言われており、当院でも膵炎の場合には積極的に使用しています。

 

膵炎は予防できるの?

ヒトの食べ物を普段から与えていたり、高脂肪のごはんやおやつを上げることは危険要因になります。

膵炎から回復して退院した後も食事管理には非常に重要です。基本的に低脂肪・高消化性のごはんが推奨されています。低脂肪でも酸化した粗悪な脂肪は膵臓に負担がかかるためNGです。

脂肪にはオメガ3脂肪酸というものもあります。オメガ3脂肪酸は健康面でのメリットがありますので、不足しないように気を付けてあげましょう。

体重管理も非常に重要で、適性体重を維持することを心がけましょう。特に肥満は様々な病気を招き、体に悪影響を及ぼします。

 

まとめ

膵炎は決してめずらしい病気ではありません。日々の食生活、体重管理、基礎疾患の管理、異変に早く気づくことで膵炎からの救命率は高く、完治が見込める病気です。

嘔吐や下痢は、日常的に遭遇する症状ですが、甘く見ていると重症になってしまうこともある病気です。

おかしいな!と思ったらすぐにかかりつけに相談しましょう。

この記事を書いた人

荻野 直孝(獣医師)
動物とご家族のため日々丁寧な診療と分かりやすい説明を心がけています。日本獣医輸血研究会で動物の正しい献血・輸血の知識を日本全国に広めるために講演、書籍執筆など活動中。3児の父で休日はいつも子供たちに揉まれて育児に奮闘している。趣味はダイビング、スキーと意外とアクティブ。