犬の狂犬病予防接種だけ義務があるのはなぜ?

狂犬病とは、人を含めたすべての哺乳類が感染するウイルス感染症です。

人が感染すると、発熱、頭痛、倦怠感、筋肉痛、疲労感といったカゼのような症状で始まり、咬まれた部位の痛みや知覚異常を伴います。興奮や不安状態、錯乱、幻覚、攻撃的状態、水を怖がるなどの脳炎症状を引き起こし、最終的には昏睡からの呼吸停止で死に至ります。発症するとほぼ100%死亡します。

 

病原体は狂犬病ウイルスで、粒子の大きさは85×180nmで比較的大きな弾丸状のウイルスです。インフルエンザウイルスなどと同じマイナス一本鎖RNA遺伝子をもったノモネガウイルス目、ラブドウイルス科、リッサウイルス属に分類されます。

この狂犬病ウイルスをもった動物に咬まれて、唾液中に含まれるウイルスが傷口から体内に侵入することによって感染します。

感染症には潜伏期というものがあり、病原体に感染してから症状が現れるまでの期間を言います。狂犬病は潜伏期が一定ではなく、2週間~1.2ヶ月とも言われており、人の例では7年も潜伏期があった報告もあります。

 

狂犬病の症状

主に中枢神経系という脳脊髄の機能障害が起こります。

犬で多い麻痺型は、飲み込むことがしにくくなる嚥下困難、唾液の分泌量が増えることでよだれを垂らすなどが特徴で、7日間以内に死に至ります。

猫で多い狂騒型は、攻撃的で噛みついたり、麻痺が起こったり、ふらついたりする運動失調が特徴です。症状が発生してから2~4日で死亡すると言われています。

 

狂犬病の治療

治療法はありません。ほぼ100%死に至ります。

人では咬まれてから複数回のワクチン接種をする暴露後ワクチン接種というものがあります。暴露後ワクチン接種についてはお住いの各自治体の保健所にお問い合わせください。

 

狂犬病の世界発生状況

狂犬病が日本、英国、オーストラリア、ニュージーランドなどの一部の国々を除いて、全世界に分布しており、海外ではほとんどの国で感染する可能性がある病気です。

出典:厚生労働省 感染症情報

https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou10/

日本国内では、人は1956年を最後に発生はなく、動物では1975年に猫で発生したのが最後です。輸入感染事例としては、狂犬病流行国で感染犬に咬まれ帰国後に発症した事例が1970年にネパールからの帰国者で1例、2006年にフィリピンからの帰国者で2例報告されています。さらに、最近では2020年5月にフィリピンからの入国後に国内で発症した例もあります。日本では過去の病気になりつつありますが、世界ではまだまだ現役の怖い感染症の一つです。

 

狂犬病ワクチンってなんで犬だけ必要なの?

ではなぜ、50年以上狂犬病が発生していない日本で、犬にだけ予防接種が義務付けられているのでしょうか?

狂犬病はすべての哺乳類に感染しますが、特にアジアの流行地域での人への感染原因は犬であるからです。狂犬病に感染する9割以上が犬から感染しているので、人への被害を予防するために、犬の狂犬病をコントロールすることが重要とされています。飼い犬に狂犬病の予防接種をすることで犬のまん延が予防され、日本にも狂犬病が侵入した場合に備えて飼い犬への狂犬病ワクチンの接種を義務付けています。狂犬病という怖い感染症を二度と国内に発生させないため、毎年1回必ず接種しましょう。

発症すればほぼ100%死亡する危険な感染症で、世界では年間6万人以上が犠牲となっています。

出典:厚生労働省 感染症情報

https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou10/

ただし、以下の理由などで獣医師が接種しないほうがいいのではないかと判断した場合のみ予防接種が免除されます。

・過去の狂犬病予防接種でアレルギーや体調の悪化がみられたことがある

・重症の感染症、全身疾患や免疫疾患に罹患している

・高齢のため体力や免疫力が低下している

など

正当な理由をもとに猶予証明書を発行してもらったら、役所の担当課へ連絡しましょう。

この記事を書いた人

荻野 (獣医師)
動物とご家族のため日々丁寧な診療と分かりやすい説明を心がけています。日本獣医輸血研究会で動物の正しい献血・輸血の知識を日本全国に広めるために講演、書籍執筆など活動中。3児の父で休日はいつも子供たちに揉まれて育児に奮闘している。趣味はダイビング、スキーと意外とアクティブ。