怖い病気、フィラリア症。犬や猫のフィラリア予防を適切に行いましょう!

[フィラリアとは?]

フィラリア症とは、犬糸状虫(フィラリア)という寄生虫が蚊を媒介にして感染する寄生虫症です。犬を含めたイヌ科動物を好適宿主として、心臓の右心室や肺動脈に寄生します。

蚊がフィラリアに感染している動物から吸血する際、血液とともに蚊の体内に取り込まれた幼虫(ミクロフィラリア)は、蚊の体内で成長し感染幼虫となり、また他の動物から吸血する際に体内に侵入し感染します。

 

動物の体内に入った幼虫は約2-3ヵ月の月日をかけて成長、皮下から脂肪組織に移動します。その後、血液に乗って心臓と肺を繋ぐ肺動脈内に寄生し、成虫となります。約6-7ヵ月で成熟した成虫は30cm程の大きさになり、多数の幼虫を産み増殖、心臓や肺に大きなダメージを与えます。フィラリアの寿命は成虫で5-6年、幼虫で1-2年と言われています。

 

[症状]

寄生した数によって異なりますが、初期はほとんど無症状で数年経ってから症状が出てくる場合があります。心不全と同じような慢性的な咳や元気消失、疲れやすい等が認められます。さらに症状が進行すると、胸水や腹水の貯留、呼吸困難、浮腫、食欲不振、体重減少など重篤な症状が認められます。また、成虫が肺動脈から後大静脈へ移動し大静脈症候群と言われる急性症状が現れることがあり、症状としては貧血や血尿、呼吸困難等が認められ、突然死する危険性があります。

 

[治療] 

幼虫には予防薬としても用いられるアベルメクチン系やミルベマイシン系製剤、成虫にはヒ素化合物製剤が内科的治療として用いられます。

外科的治療として成虫の摘出を行う場合があります。大静脈症候群での緊急処置や大量に寄生されている場合に実施されることがありますが麻酔リスクや手術の難しさから適応制限があります。

以下の記事でも治療について詳しく紹介をしているのでよろしければご参照ください。

フィラリア症 | 市川市・浦安市の動物病院『ALL動物病院行徳』皮膚科/眼科 (wizoo.co.jp)

 

[予防が重要な理由] 

感染し成虫まで成長した場合、薬で駆除をすると血管内に死骸が詰まり状態の悪化を招きかねません。また、肺静脈の状態によっては重度の循環器不全に陥り犬が死亡する可能性があります。今では予防をしっかり実施している飼い主が多いため死亡率は以前より減少しましたが、フィラリア症はかつて犬の死因第1位の怖い病気でした。気づかないうちに感染し、重症化して手遅れになることも少なくありませんので毎月1回の予防を必ず行いましょう!

 

[猫は?]

猫も犬糸状虫に感染する可能性があります。北海道から沖縄まで室内・室外飼育に関わらず多くの感染が報告されています。猫の10匹に1匹は感染していたとの報告もあり、完全に室内で生活している猫でも感染率は39%という報告もあるため、室内でも感染リスクがあります。ただし、猫の免疫で幼虫が死滅することも多く、成虫になるものは少ないため犬に比べて発症頻度は少ないです。初期症状としては喘息やアレルギー性気管支炎のような症状を起こしますが、進行すると肺に重度の炎症、塞栓症が起こり急性肺障害や突然死が引き起こされることがあります。また、死亡しなかった場合でも、慢性呼吸器疾患に至る猫がいます。犬に比べて診断が難しいため、発見が遅れることが多いのが現状です。

 

[予防の方法]

蚊が発生した1ヵ月後から発生終了の1ヵ月後までの間の予防が重要です。地域差はありますが、当院では4月から12月までの予防をお勧めしています。

蚊が出てすぐに投与する必要はなく、幼虫が成長するタイミングが関係してきます。感染後、皮下に入った幼虫は数日かけて脱皮し、一回り大きくなり移行幼虫と呼ばれるようになります。フィラリア予防薬はこの移行幼虫を駆除することが出来ます。移行幼虫は約50-70日で脱皮を繰り返し大きくなるため、毎月1回の予防が必要となります。また、蚊の発生終了1カ月後の予防は1ヵ月前に感染した幼虫を駆除するために非常に重要な行為ですので必ず実施するようにして下さい。フィラリア症の専門学会であるAmerican Heartworm Societyでは、通年での予防を推奨しています。

 

予防薬としては、内服薬とスポットの2種類があります。

内服薬には錠剤タイプやチュアブル(おやつ)タイプがあり、同時にノミやマダニ、消化管内寄生虫等も予防できるものがあります。錠剤タイプは、食物アレルギーがある子やお腹が弱い子、おやつを食べない子にも好物に包んで与えることが可能です。お薬の匂いで食べてくれない子もいますので、ジャーキーなどのおやつが好きな子にはチュアブルタイプの方が楽に投薬管理が出来ます。どちらも、1ヵ月に1回投与が必要です。

スポットタイプは背中に滴下する液体の予防薬ですので、投薬が苦手な子でも簡単につけることが出来ます。また、猫にも使用することが可能です。こちらも1か月に1回塗布が必要です。

他にも、注射で打てる予防薬があります。1年間効果が持続しますが、副作用が強くでることがあるので、当院では取り扱いしておりません。

コリー系の犬種は予防薬の種類によって神経症状などの副作用が出る可能性がありますので獣医師の指示の下で予防薬の投与をするようにして下さい。

[Q&A]

Q.毎年飲んでいたら検査は必要ない?

A.毎年の検査をお勧めしています。しっかり予防薬を投与していても予防が確実にできているか、予防薬を開始する前に確認することをお勧めします。フィラリア成虫より産出された幼虫が体内にいる場合、予防薬を投与してしまうと一度に大量の幼虫が死滅してしまうためショック症状を起こし、最悪の死に至ることがありますので、検査は必ず実施しましょう。

Q.完全室内犬でも予防は必要?

A.室内でも蚊は入ってきますので予防が必要です。ご自宅で蚊に刺されないよう工夫をされていたとしても、必ずしも蚊に刺されないわけではありません。フィラリア症は命に関わる病気ですので、しっかり予防してあげましょう。

Q.もし飲み忘れてしまったら?

A.原則としては引き続き投薬していただきますが、まずは病院にご相談ください。飲み忘れた期間に感染していたかはすぐに検査しても分かりません。フィラリア症の検査は、感染後成虫となったフィラリアが産出した幼虫を検出するものですので、感染後半年以上経過していないと感染の有無は判断できません。投薬の判断が難しい場合はいつでもご連絡ください。

この記事を書いた人

伊川 恵美加(愛玩動物看護師)
物心つく頃には動物に触れ合うことが多く、将来の夢は動物関連の仕事に就くことだった。看護師として外科の勉強や、当院をみなさまに周知してもらえるようHP等の内容を充実させることに奮闘中。また、シニア猫との暮らしの経験からシニアになってもより良い生活をできるようお手伝いしております。フェレット大好き、フェレット仲間募集中!