高齢猫に注意!慢性腎臓病について解説します。

・イントロダクション

慢性腎臓病は様々な原因で腎臓の構造と機能の異常が長期間続く病気です。この病気は静かに進行していき、腎臓の機能が大部分(60-70%)障害されるまでは目立った症状は起こりません。ご家族が気づく段階ではすでに進行した状態になっていることが多い病気です。高齢の犬や猫に多く、高齢の猫ではほとんどすべての猫に慢性腎臓病のリスクがあります。残念ながら完治が見込める病気はなく、上手に付き合いながら進行を遅らせていき、犬や猫の生活の質(QOL)を向上させることを治療の目標とする病気です。

 

・腎臓の機能と働き

腎臓の働きは体の中の老廃物を濾過して尿として排泄します。その過程で体の水分バランスやイオンバランスを整え、体の機能を保っています。また、様々な働きをするホルモンを生成します。ホルモンを通して、①血液を作る司令官 ②血圧の調節 ③丈夫な骨を作るといった役割を果たしています。

・症状

慢性腎臓病になると老廃物の排泄機能が落ちます。仮に20%程度まで落ちているとすると、100個の老廃物を排泄するのに1回の尿では20個までしか排泄できません。100個の老廃物を排泄するには100%の機能を持つ正常な腎臓では1回の尿で排泄できますが、慢性腎臓病(20%程度の機能)の腎臓では5回の尿が必要となります。慢性腎臓病にかかると大量に排尿をすることになり、結果的に水分摂取量よりも水分排泄量が多くなるため脱水が進行します。よくご家族から「よく水を飲むので薄いおしっこをする」と伺いますが、実は体の中では逆におしっこをいっぱいしなければならないため、その出ていった分の水を補うため水をたくさん飲むということが起こります。

 

 

左が正常な尿、右が腎臓病の患者の尿です。色の濃さの違いが分かります。

他にも老廃物が体にたまることで、老廃物のもとになる栄養を取り込む胃腸の粘膜が障害を受け、食欲不振嘔吐下痢などといった消化器症状を起こします。進行すると尿毒症となり老廃物が脳に障害を与えることでけいれん発作などの神経症状を起こします。進行した腎臓病では老廃物が尿からほとんど排泄されず、呼吸により体から排泄されるようになるため特有の強い口臭が認められます。

また、腎臓が生成するホルモンが出なくなることで血液を体でうまく作ることが出来ず貧血になったり、血圧の調節がうまくいかず高血圧になったりします。

 

・検査と診断

慢性腎臓病は早期発見、早期治療が進行を遅らせる意味で最も重要になります。血液検査、尿検査、超音波検査などの画像診断を組み合わせて慢性腎臓病を診断します。ただし、今の獣医療技術では腎臓の大部分が障害を受けてから検査値が異常となるため、診断された時には腎臓の障害はかなり進行しています。尿検査(尿比重、尿タンパク)では33%、従来の血液検査であるクレアチニン値(Cre)では25%程度の腎機能しか残っていない状態ではじめて異常が検出されます。比較的新しい血液検査項目のSDMAは、60%程度の腎機能で異常値となり他の検査と比較して早期に診断がつく可能性があります。その他にも血液検査でリン(P)やカルシウム(Ca)、タンパク質の一種であるアルブミン(Alb)、体のイオンバランス、尿検査でタンパク尿の指標である尿タンパククレアチニン比(UPC)を計測し、適切な治療をすることで腎臓病の進行を遅らせていきます。また、高血圧を併発していないかの確認を行います。また、腎臓病が発症している動物は心臓病を併発するリスクも考慮しなければなりません。慢性腎臓病が診断された場合には定期的な検査が必要になりますので、検査の間隔などよく獣医師と相談しましょう。

同じ猫の腎臓の超音波検査画像です。左が正常な腎臓、右が腎臓病になり萎縮した腎臓です。

 

・治療

慢性腎臓病は治る病気ではないため早期発見、早期治療が最も重要です。慢性腎臓病は病気のステージにより症状や治療法が変わります。治療としては食事療法、内服薬、点滴治療を組み合わせます。ステージを通して、ご家庭でできる看護して飲水の管理が最も重要になります。その他にも吐き気に対して吐き気止めを投薬、貧血に対して造血ホルモン剤の投薬などを組み合わせて、病気の進行を遅らせながら生活の質を向上していきます。

最もエビデンスがあるものとしては食事療法があげられます。食事中のタンパク質、リン、ナトリウムが制限されている食事です。早期から使用することで腎臓病にかかっている動物の生存期間が倍以上に延長することが分かっています。ただし、あまりに早期から使用すると、タンパク質が制限されているためカロリー源が炭水化物と脂質となるため、肥満傾向になる可能性があります。また、基礎疾患がある場合は勧められないケースもありますので、獣医師か動物看護師によく相談をするようにしましょう。

また、食事療法と一緒に最も重要なのが飲水量です。腎臓病は脱水が常時進行しますので水分をしっかり摂取しなければなりません。まずは水の好みを把握してどの水をよく飲むのか見極めましょう。また、水飲み場を増やすこと、容器の高さや種類を変えること、新鮮な水を用意することも重要です。蛇口から出る水が好きな子にはウォーターファウンテンの使用も効果的です。その他にも洗面台に張ってある水やお風呂の床の水が好きな子には、洗面台にボウルを用意したりお風呂場の床にトレーなどを用意してそこに水を張ることも有効です。また、氷水やぬるま湯が好きな場合もありますので飲水量を増やすにはどうするのが自分の子に一番いいのかをよく見極めましょう。犬の場合にはお散歩時の給水を頻繁に行うことも効果的です。

病気が進行してくると飲水だけでは脱水が管理できなくなる場合があります。その場合には病院での皮下点滴や静脈点滴が必要になる可能性があります。また、自宅での皮下点滴を行うこともあります。病院での皮下点滴の場合は定期的な受診が必要になりますし、静脈点滴では入院治療が必要になります。自宅での皮下点滴もしっかりと指導や教育を受ける必要がありますし、法的には拡大解釈すると合法ですが特に判例はないため、どのような点滴治療を行うかは動物の性格や通院環境を考慮ししっかりと獣医師と相談しましょう。

内服薬では高血圧、タンパク尿、リンの高値、病気のステージにより変わります。吸着剤、ACE阻害薬、降圧薬、リン吸着剤、ネコの場合は腎臓病治療薬が最近使用できるようになりましたので、それらを組み合わせて治療を行います。どのような薬が飲ませやすいか、投薬を受け入れてくれるのかにより、必要性は異なります。よく獣医師と相談して、処方された薬の用法・用量を守って投薬しましょう。

人間では人工透析療法が慢性腎臓病治療で選択されますが、動物では透析用のチューブ設置に頚静脈を使用しますので治療中の絶対安静が必須となります。数時間に渡り絶対安静することが難しく、週に数度の通院がご家族の事情からも現実的に難しいため選択されません。

 

・見通し

病気のステージによりますが、早期診断が出来ればすぐに重篤になる病気ではありません。重篤な状態で診断されるのは、多くが定期的な検査などを受けておらずすでに病気のステージが進んだ状態で診断を受ける場合に認められます。診断時のステージによりますが、適切な治療を受ければ数年単位で付き合っていける病気です。ただ、完治を目指す病気ではありませんので、かかりつけの先生とよく相談して、どのような治療がこの子に適切なのかを見極めて付き合っていきましょう。

 

・予防と対策

繰り返しになりますが、慢性腎臓病は早期発見、早期治療が最も重要です。1年に一度は全身的な血液検査、尿検査を含めた健康診断を受けましょう。シニア期には健康であっても健康診断を年に二度受けることもお勧めします。飲水量を維持できるよう水の好みを知っておくこと、また長期の投薬を行う可能性があることから投薬をする機会があれば確実な投薬を行えるよう練習をしていきましょう。

 

ご自宅で注意すべきサインとして

・食欲が徐々に落ちてきた

・活動量が落ちた、よく寝るようになった

・体重が落ちてきた

・水を飲む量、尿の量が増えてきた

・毛づやが悪くなってきた

・吐く回数や頻度が増えた

このようなサインがあった場合には一度病院を受診するようにしてみましょう!