犬や猫の嘔吐・下痢が治らない。。。そんな症状ありませんか??炎症性腸疾患(IBD)についてご説明します。

いつも便がゆるかったり、頻繁に下痢をする。おなかが弱いのが普通。。。

便の検査をしても異常がない、なんてことはよくある話です。

 

犬や猫の下痢の原因はたくさんの原因が考えられ、

・感染症(細菌、寄生虫、ウイルスなど)

・食事反応性(アレルギーなど)

・腫瘍(ポリープやリンパ腫など)

・薬剤反応性

・リンパ管拡張症

・食あたり  etc…

このどれにもあてはまらない胃腸に炎症を起こす慢性腸疾患を総称して炎症性腸疾患IBD(Inflammatory bowel disease)といいます。

 

原因と症状

IBDの原因は特定されていません。ごはんの影響や環境、遺伝的要因、免疫システムの異常、消化管粘膜の異常、腸内細菌叢の影響などが原因ともいわれています。

主な症状は慢性的な下痢と嘔吐、食欲不振、体重の減少が一般的です。

 

下痢は小腸性下痢と大腸性下痢に分けられます。

小腸性下痢:便の回数が変わらないが、1回の量が多く体重の減少がみられることが特徴。

大腸性下痢:便の回数は多くなるが、体重の減少がみられない。

IBDでは両方の症状を起こすことがあります。

 

また腸からタンパク質成分が漏れ出てしまう症状がでると、低タンパク血症(血中のタンパク質が少なくなってしまうこと)が起こることがあり、それに伴って胸水や腹水が貯留する症状がでることもあります。このような症状がでると「タンパク漏出性腸症」という病名になります。

タンパク漏出性腸症は、血中からタンパク質が漏れ出てしまい低タンパク血症(血液検査ではアルブミンの低下)がみられ、重症化すると腹水の貯留や四肢のむくみが見られます。

基礎疾患(悪性腫瘍や感染性腸炎など)を除外して診断をしますが、療法食や薬に反応しない、再発を繰り返すなど症状が悪化する場合には数ヶ月で亡くなることもある病気です。

 

診断のガイドライン

原因不明の慢性的な腸疾患を総称してIBDと言います。診断方法は除外診断で、ほかの疾患を1つずつ消去していく方法で行います。

IBDを疑う際には消化器症状を示すほかの病気を除外していくことが必要になります。

除外していく病気は以下のようなものがあります。

・感染症:細菌や寄生虫、ウイルスの感染による消化器症状です。顕微鏡による便検査や遺伝子検査を行います。

・膵炎:膵臓はアミラーゼやリパーゼ、トリプシンなどタンパク質や脂肪を分解する消化酵素を分泌しています。そのほか、血糖値をコントロールするホルモンも分泌している大事な臓器です。消化酵素の過剰分泌やホルモンバランスの崩れによって下痢や嘔吐を引き起こすこともあります。膵炎は膵炎検査キットや膵特異的リパーゼを検査することによって簡単に除外することができます。

・リンパ管拡張症やタンパク漏出性腸症

腸粘膜にあるリンパ管(食べ物中のタンパク質や脂肪を吸収する管)が拡張することでタンパク質や脂肪が吸収されずに体外へ漏れ出てしまう病気のことです。血液検査や超音波検査、内視鏡による腸粘膜の観察と生検によって診断します。

・ホルモンによる病気

甲状線(甲状腺機能亢進症、低下症)や副腎(クッシング症候群、アジソン病)から出るホルモンの過剰や不足が原因で消化管に影響がでることがあります。超音波検査やホルモン検査で診断します。

 

診断に必要な検査

・血液検査

病状が進んでいる場合には低アルブミン血症(血液中のタンパク質濃度の指標 アルブミンが低くなっていること)や貧血が異常所見としてみられることがあります。

IBDに特化した血液項目はなく、他の病気を除外するためにも全身的に検査を行います。

また、血液検査の結果などでホルモンの異常などが疑わしい場合はホルモン検査を追加することがあります。

他にも食物アレルギーの確認のためアレルギー検査を行うことも多いです。

・レントゲンやエコーの検査

腹水の有無や、タンパク漏出性腸症や腸の炎症と関連してエコー検査で腸管の肥厚やコルゲートサインを見ることができます。

・内視鏡検査

IBDの診断には内視鏡検査が必須です。腸粘膜の目視による確認、組織を採取する病理組織検査を行います。

組織の炎症細胞を確認し、食事や寄生虫による腸炎の除外診断を行うのに必要な検査です。

IBDの治療

IBDの治療の目標は、腸の炎症を抑えて下痢や嘔吐を軽減することと、食欲と体重を戻すことになります。

IBDは体の免疫反応が過剰になっていることが多く、療法食や抗生剤、消炎剤、ステロイド剤、免疫抑制剤による治療が必要となります。

 

・療法食による治療

食べ物に含まれるタンパク質に反応して発症することがあるので、低アレルゲンのごはんを選択します。腸粘膜の働きが低下しているため低脂肪で消化の良いごはんをとってもらいます。

その他に、新奇タンパク質食(今まで食べたことがないタンパク質のごはん)、加水分解タンパク質(タンパク質を細かく分解してあるごはん)、アミノ酸食(タンパク質の素である窒素源がアミノ酸であるごはん)なども選択肢の一つです。

食事療法中は、一種類のみの療法食を使用し、それ以外の食べ物(おやつや人間の食べ物)をあげないように注意しましょう。治療がすべて台無しになってしまいます。

食物不耐性や食物アレルギーとの区別が難しく、食事療法は瞬発的に効果がみられることは少ないので長期戦になります。

アレルギーを除外するためにはアレルギーも検査項目に含めてみることもあります。

・抗菌薬の使用

IBDでは、いろいろな抗原にたいしての免疫反応が過剰になっています。その抗原の一つに腸内細菌も含まれます。

腸内細菌による腸内炎症を軽減する目的で抗生剤を使用します。4~6週間程度の抗生剤を与えることになります。

食事療法を先行、または併用することもあり、抗生剤の使用は抗菌薬反応性腸症の診断的治療をすることにもなり有用です。
抗菌薬反応性腸症とは、小腸の中で細菌が過剰に増加したさ細菌が抗菌薬によって抑えられ下痢が治まる病気のことです。近年では、細菌の増加が必ず起きない症例も報告されています。

抗菌薬の使用によって症状が治まれば、抗菌薬反応腸症と診断します。

・ステロイド剤、免疫抑制剤

免疫抑制剤やステロイドを使用することもあります。食事療法や抗菌薬両方に対して反応があまり見られない場合にも使用します。診断時に低タンパク血症がある場合には使用することが多いです。

しかしながら、糖尿病や感染のリスクが高い疾患がある場合は慎重に薬を選ぶ必要があります。調子を見ながらお薬の量を増減する必要があります。

またステロイドの不適切な使用は糖尿病や医原性クッシングなどのホルモン異常疾患を起こしたり、免疫抑制剤は腎臓障害、肝臓障害、骨髄抑制(造血細胞の働きが低下すること)が起こることがあります。

自己判断で増やしたり、休薬や漸減は危険ですので獣医師の指示に従って、モニタリングしながら適正量を決めていきましょう。

・その他の治療法

腸内細菌に乳酸菌の善玉菌をいれたり、フラクトオリゴ糖など腸内細菌を活性化させる物質を使うこともあります。

善玉菌を腸内にいれることを「プロ・バイオティクス」、すでに腸内にある善玉菌を育てることを「プレ・バイオティクス」、その両方を合わせて行うことを「シン・バイオティクス」と言います。

さらに、通常の下痢止め(タンニン酸、ベルベリン、次硝酸ビスマスなど)併用もします。

またタンパク漏出性腸症の場合は、コバラミン(ビタミンB12)を吸収できないため血中のコバラミン濃度が低いこともあり、皮下注射でコバラミンを追加することもあります。

 

まとめ

このように下痢がおこる原因は非常にたくさんの要因が絡んでいます。

ご紹介した原因以外にも下痢につながるものはあります。IBDはいろいろな病気を除外した上で診断するもので簡単に確定診断できる病気ではありません。実はとても難しい病気のひとつなのです。

見るからに重症の下痢、腹水が貯留しているなどの症状ではない、ずっとゆるい下痢が続いているなどの軽度な症状が慢性化している場合、IBDが疑われることがあります。

普段の様子や食べているごはん、生活環境などが重要なヒントになることが多いため、受診するときは細かく状況を理解している方が同行することをお勧めします。

治療は、さまざまな治療法を組み合わせていきます。大事な家族にあった治療法を獣医師と一緒に探していきましょう。

この記事を書いた人

荻野 直孝(獣医師)
動物とご家族のため日々丁寧な診療と分かりやすい説明を心がけています。日本獣医輸血研究会で動物の正しい献血・輸血の知識を日本全国に広めるために講演、書籍執筆など活動中。3児の父で休日はいつも子供たちに揉まれて育児に奮闘している。趣味はダイビング、スキーと意外とアクティブ。