早期発見が大事!犬の門脈体循環シャントをご存じですか?

門脈体循環シャント? 門脈って?

門脈という血管をご存知でしょうか?門脈は消化管などから吸収した栄養などを集めて肝臓に入る血管のことです。門脈には胃、小腸、大腸、膵臓、脾臓、胆嚢など泌尿器系以外の臓器から流れでる静脈が集まっていて、腸管で吸収された栄養分や解毒すべき成分、膵臓で作られたインシュリンなどを含んだ状態で肝臓に流入していきます。

肝臓は、この門脈から入ってきた栄養分をもとにタンパクやグリコーゲン、脂肪酸、コレステロールなど成長や生きていくために必要な物質を作ります。また、毒素などの有害物質や薬物などは肝臓での代謝、分解を受けて安全チェックをされてから心臓に送られて全身へ回ります。門脈は食事などで外部から吸収されたものなどを、まず肝臓に運ぶための重要な血管になります。

さて、表題にある門脈体循環シャント(PSS:Portosystemic shuntとは、この門脈から枝分かれした血管(側副路)ができてしまっている状態のことを言います。栄養素とともに毒素などが肝臓を通らずに全身の循環へ流れてしまことで、肝臓への栄養分が供給されず様々な物質の合成ができないことと、解毒されなかった毒素(アンモニアなど)が全身の循環へ回ってしまうため様々な悪影響が出てくることになります。

なんで門脈シャントに?

PSSの原因の多くは先天性で、生まれた時からシャント血管が存在しているということになります。シャント血管の大きさ(太さ)などによっても度合いが違ってきますが、様々な影響が目に見える部分、見えない部分で現れてきます。また、シャント血管の発生部位は様々で、肝臓に流入する前の血管領域でシャント血管ができている場合を肝外シャントといい、全体の約8割を占めます。1割ぐらいの子では肝臓内で隠れた部位にシャント血管が発生しています。

後天性のPSSは肝臓疾患などからの門脈高血圧が原因で生じ、多発性に複数のシャント血管が見られることが多くあります。

 

症状

先天性のPSSでは、様々な症状を示します。肝臓への栄養供給が不足することで、他の子に比べても体格が小さく痩せていることが多く、肝臓への血液量が少ないため肝臓サイズが小さくなります(小肝症)。

肝臓での糖分の分解、合成も滞ることになり低血糖もみられることが多く、元気がなく沈うつな様子がみられることがあります。

また、初期には明らかな症状が見られなくても、アンモニアなどの毒素が解毒されずに全身の血流に入り込んでしまうため、過剰なよだれ、無目的な徘徊、痙攣/発作などの神経症状(肝性脳症)が徐々に見られてきます。

また、アンモニアが尿中に高濃度に排泄されることで膀胱結石ができることもあります。

治療しなければ、徐々に肝臓の障害が強くなり、肝機能不全や神経障害から死亡してしまうこともあります。しかしPSSの子でも、ほとんど症状が見られないこともありますし、嘔吐、下痢、食欲不振などの特有ではない症状だけのこともあります。

後天性のPSSができてしまうような状態では、原因となる肝臓の疾患にもよりますが、シャント血管を作るほどの肝臓の障害があるので、肝不全(肝硬変)になっていることも多く、黄疸、腹水、肝性脳症、元気食欲の低下などが見られます。

 

好発品種

先天性のPSSはヨークシャー・テリア、シーズー、マルチーズ、トイ・プードル、ミニチュア・シュナウザーなどで多いと報告されていて、肝外シャントが多いと言われています。

大型犬ではジャーマン・シェパード、ゴールデン・レトリーバー、ドーベルマン・ピンシャーなどの報告が多く、肝内シャントの割合が多いとされています。しかし、上記の犬種以外にもPSSはどの犬種でも発生が見られています。

猫のPSSは犬よりも稀ですが、チンチラ、アメリカン・ショートヘアなどに多いと報告されています。猫でのPSSではカッパーアイと言って眼の虹彩が銅色に見えるというのも有名な話ですが、必ずしもPSSだと銅色というわけでもなく、PSSなどがなくても銅色の猫もたくさんいますので、これだけで診断はできません。

 

どうやって診断される?

先天性のPSSの確定診断にはシャント血管を視覚的に確認する必要があるため、造影CT検査が一般的になってきています。

しかし、犬や猫でのCT検査は全身麻酔が必要になる上に検査費用もかかるため、上述したような症状がある場合や、検診/手術前検査などのスクリーニング検査で異常が認められた際にCT検査をお勧めしています。

血液の一般的な検査では肝酵素の上昇やBUN(尿素窒素)、アルブミン、コレステロール、血糖値の低値などが認められるとPSSの疑いを考えていきます。

また軽度の貧血が見られることがあります。さらに追加検査として食事前後の血中アンモニア、TBA(総胆汁酸)の測定 、レントゲン検査(小肝症の確認)や超音波検査(小肝症、シャント血管の描出、肝臓内門脈の発達程度の確認)などを行い、やはりPSSの可能性が強いときには造影CT検査をしてシャント血管の有無、発生部位などの確認をしていきます。

後天性のPSSでは肝機能障害が強く認められることや、腹水の有無/性状などから強く疑い、超音波の検査で肝臓内部の腫瘤(しこり)などがないか確認します。肝臓のおおもとの病気の精査には、開腹検査や肝臓の一部を切り取って調べる生検が必要になってきます。

 

治療方法

先天性のPSSの場合は1本のシャント血管であることがほとんどで、肝外シャントであることも多いので、外科手術によるシャント血管の閉鎖によって正常な門脈血流を回復させて完治することが見込めます。

シャント血管を1度で完全に閉鎖できることもありますが、一気に門脈血流が増加することで、症状が悪化することが懸念される場合には複数回に分けて閉鎖していくこともあります。

近年では、腹腔鏡手術が実施できる施設も出てきています。注意する点として、1つにはシャント血管のタイプによって手術の難易度が変わることがあります。そのため、手術前に造影CT検査でどのようなタイプでどのようなリスクを考慮しなければならないのかといった術前計画が大事になります。もう一つの注意点としては、シャント血管を閉鎖した手術直後に起きる難治性の発作(結紮後発作症候群)があり、原因ははっきりと解明されてはいませんが、手術後72時間以内に約10%前後での発作が起きることが知られています。

手術での治療以外には、肝性脳症を引き起こすと考えられているアンモニアの濃度をあげないよう飲み薬や食事療法での管理も選択肢になります。

しかし、肝臓への血液の流れが改善しない限り生涯肝機能は悪化し続けること、長期的な視点で見ると外科療法のほうが症状の発現が少ないこと、年齢を重ねてからの手術は合併症リスクが高くなるといわれていることなどから、可能であれば早期の手術治療をお勧めしています。

後天性のPSSの場合には肝生検をした上で、おおもとの原因になっている肝臓の治療をすることや、対症療法としての内科的治療を行なっていきます。

 

門脈シャント(特に先天性のPSS)では、放置すると肝機能の悪化が進行してしまうため、早期の手術が望まれます。若齢期に疑わしい症状、検査結果が見られたら慎重に追加検査を実施して確実な診断が必要になりますので、若いうちからでも健康診断はしっかりとしてあげるようにしましょう。

この記事を書いた人

南 智彦(獣医師 外科部長)
日本獣医がん学会、日本獣医麻酔外科学会に所属し外科部長として多くの手術症例を担当。犬猫からよく好かれ診察を楽しみにして来てくれることも多く、診察しながらずっとモフモフして癒してもらっていることも。見かけによらず大食漢でカップ焼きそばのペヤングが好き。1児の父であり猫と一緒に暮らしている。