いつか来るかも?今のうちに知っておこう!犬や猫で輸血が必要な症状を解説します。

犬や猫にも輸血治療があるのはご存知ですか?

最近はご家族の認知度も高まってきている輸血治療ですが、まだまだ日本国内では満足な輸血治療は受けることは出来ません。

人医療では日本赤十字社が中心となり献血を行いながら輸血治療を支えていますが、獣医療ではそのような団体はなく、同時に法律的に輸血用血液を自分の動物病院以外から得ることは非常に難しいのが現状です。

そうなると、かかりつけの動物病院の他の患者さん、スタッフの犬や猫、輸血を受ける患者のご家族が探すなどをしてドナーを見つけなければ輸血を受けることは出来ません。

当院をはじめ献血システムを持つ病院もありますが、まだまだ満足に輸血を受けることが出来ない現状だからこそ、輸血が必要になる病気について勉強してみましょう!

 

どんな時に輸血をするか

血液は血液の細胞である血球と血液の水分である血漿に分けられます。詳しくはコチラで解説していますのでご覧ください。

このどちらかが体内に不足している時に輸血が必要になります。

体内に不足している状態というのも分かりづらいかもしれませんが、一番イメージがつきやすいものとしては「貧血」が挙げられます。

貧血では体内に血球(原因により血漿も)が不足した状態となっているため、輸血で血球を補充する必要があります。

大まかに輸血治療を受ける病気を分類すると「貧血」「低タンパク状態」「止血機能の異常」の3つに分けられます。

人間の場合はこの原因それぞれによって輸血をする成分が異なります。もしかしたら、成分献血を受けたことがある方もいらっしゃるかと思いますが、人では必要な成分のみ献血をして、それを輸血するということもあります。

基本的には原因により血液を成分に分けて輸血をする方が輸血副反応(副作用)を抑えることが出来ます。獣医療では成分輸血は一部の病院で受けることが出来ますが、まだまだ一般的に行われていないのが現状です。

 

この次の項目からはそれぞれについて簡単に解説していきます。

 

一つ重要なことをお伝えします。

これらの病気の時によくご家族にある誤解は「輸血をすれば治るんだ!輸血をすれば解決する!」と思われていることです。

輸血は対症療法です。輸血をすることは原因を治療するための時間稼ぎでしかありません。原因を根本的に治療すること、これこそが輸血で最も重要なのです。

 

「貧血」になるとどうなる?

貧血とは様々な原因で酸素を運搬する赤血球が不足する状態を言います。

ふらついたり、倦怠感を感じるなどが全身的に認められたり、酸素運搬がしづらくなることで体が積極的に酸素を取り込もうとするため呼吸が粗くなります。

また、赤血球が少なくなることで血の色(赤)が薄くなりますので、血色が分かりやすい唇や目の粘膜の色が薄くなります。

貧血の原因

貧血はいくつかに分類されます。一つはその原因による分類。

(1)赤血球が作られない(産生低下)

骨髄で通常作られる赤血球が作られず、体内の赤血球が不足している状態です。

作られる場所である骨髄の異常や、赤血球のもととなる鉄の不足、赤血球生成を刺激するホルモンの不足などが挙げられます。また、一部のガンや薬剤によっても赤血球の産生低下が起こることもあります。

(2)赤血球の寿命が短くなる、あるいは赤血球が壊されてしまう(溶血)

赤血球が変化を起こす、もしくは自分の赤血球にもかかわらず体内の免疫システムに異物と認識されてしまうなどして赤血球が壊されてしまい、結果として体内の赤血球が不足した状態となります。

赤血球自体が変化して壊されやすくなってしまうので有名な病気はタマネギ中毒です。他にもマダニなどが媒介するバベシア症、ヘモプラズマ症も挙げられます。

(3)出血

外傷で明らかに血が出ているのを見ていると出血と分かると思いますが、それ以外にも出血による貧血は様々です。

持続的な血尿や血便なども注意が必要です。また、お腹の中の腫瘍や臓器が損傷を起こすことでお腹の中に出血を引き起こすことがあります。急激に目に見えない大量の出血があると命の危険があります。

また、見えない出血であげると皮膚の内出血が悪化することで貧血を起こすこともあります。動物は体毛があるのでなかなか気づかれづらい異常です。

 

「低タンパク状態(低タンパク血症)」とは?

体の中でタンパク質というのは重要な機能をもっています。

体を構成するコラーゲンのような構造タンパク質、性ホルモンやインスリン、各種の酵素といった体の機能を維持するための機能タンパク質、そして最後に体の中で様々なものを血液などを媒介して運ぶ運搬タンパク質の3つに分けられます。

中でも運搬タンパク質のアルブミンが下がっていることを主に低タンパク血症と言います。

アルブミンは体内では薬やホルモン、毒なども結合して目的臓器に運搬することが主な働きですが、もう一つ重要な働きとして血液を正常に循環させるため水分を保持する役割を持ちます。

アルブミンが減少することで血液中の水分の保持が困難になります。水分保持が困難になることで血液中の水分が色々なところに漏れ出すことで体に異常をきたします。

お腹の中に水が漏れる場合は「腹水」、胸の中に水が漏れる場合は「胸水」などと呼ばれ、皮下に漏れると皆さんもよく聞く「むくみ 浮腫」となります。また、脳に問題を起こすこともあり、危険な状態になることもあります。

右側に見える足より左側に見える足の方が浮腫しており、皮膚がたるんでいるのが分かる。

胸水が溜まると肺が膨らまなくなるので非常に苦しくなります。また、腹水貯留が進行することでお腹がパンパンにはれてしまい食欲低下や嘔吐などがみられることがあります。

それぞれの要因によって治療は異なりますが、基本的には輸血で補充をしようとしても長期的な効果は見いだせず、原因となる病気を治療することが非常に重要です。

最近では人のタンパク質製剤を補充するといった治療法も存在しますが、アレルギーなどのリスクもある治療となります。

 

「止血機能の異常」とは?

体内では出血があると様々な機能や因子が関わりながら止血をしていきます。

その過程を私たちは「血液凝固」といい、その機能異常を起こしている状態を「血液凝固不全」といいます。

血液凝固には様々な因子が関わっています。よく耳にするものだと血小板やカルシウムなどが挙げられます。

多くの血液凝固因子は肝臓で作られており、納豆などに多く含まれるビタミンKがその生成をサポートしています。

 

では止血機能異常 血液凝固不全が起こるとどうなるのでしょうか?

血液凝固不全の患者写真です。耳に青あざ(紫斑)が多くみられます。

写真のように体の色々なところで出血しやすくなり、血が止まらなくなります。

体の表面に出る場合は青あざ(紫斑)や眼や口の中に点状に出血が出てきます。

体内で起こる異常としては吐血や下血、血尿といった排泄物に影響が出る場合とお腹の中での出血や脳出血といった外からは分かりづらい変化があります。

下血のように血液が出る場合は分かりやすいですが、黒色便も腸からの出血を疑う所見です。詳しくはコチラをご確認ください。

血が止まらなくなることで貧血が急激に進行し、死に至るケースもある危険な病気の一つです。

症状が進行している場合は緊急的に輸血を行うことが多いです、

貧血にいたっていない、止血機能の異常だけであれば見た目では元気なこともありますので、注意が必要です。

 

ここまで長々とお伝えしてきましたが、輸血が必要な時は生命にかかわる危機が迫っています。

普段からよく自分のペットを観察して異常があるかよく見極めるようにしましょう!

また、何か怪しい部分があればいつでも当院にご相談ください!

 

この記事を書いた人

荻野 直孝(獣医師)
動物とご家族のため日々丁寧な診療と分かりやすい説明を心がけています。日本獣医輸血研究会で動物の正しい献血・輸血の知識を日本全国に広めるために講演、書籍執筆など活動中。3児の父で休日はいつも子供たちに揉まれて育児に奮闘している。趣味はダイビング、スキーと意外とアクティブ。