若い猫にガンを引き起こす怖いウイルス。猫白血病ウイルス FeLVを知っていますか?

FeLV(猫白血病ウイルス)はレトロウイルス科γレトロウイルス属に分類されるウイルスです。

感染後発症すると免疫機能の低下や白血病を起こして関連疾患により死に至ることもある恐ろしい感染症です。

今回はこのFeLVについて解説していきます。

 

FeLVはどのように感染する?

FeLVに感染している猫の唾液や血液中に含まれるウイルスが、咬傷されることなどによってうつります。

FeLVはウイルスとしての働きだけでなく、プロウイルスという形態になることがあります。

プロウイルスはウイルスの「スパイ」のような存在で、ウイルスが感染して猫の体に入ったあとで細胞の中に隠れてます。プロウイルスは細胞の中に隠れてFeLVの情報(DNA)を保管しています。ウイルス感染はしていないように見えてもウイルスのDNAが細胞内に取り込まれていることで、ウイルスが増えることがあります。

このようにプロウイルスとして感染していたり、ウイルス自体があまり活動せずに隠れて感染していることを持続感染といいます。

子猫の免疫がしっかりしていない生後間もない時期に感染するとほぼ100%感染が成立してしまいますが、離乳してからは50%、1歳以上の猫では10%ほどの持続感染率と言われています。

感染している猫と同じ食器を使用したり、猫同士のグルーミングによる感染の可能性もあります。また母猫が感染している場合、ウイルスが胎盤を経由したり保育時に子猫に感染することもあります。

体外にでたFeLVは非常に弱く、アルコールや紫外線、熱などによって簡単に死滅します。

 

FeLV感染症の症状

FeLV感染症は感染が成立した初期である急性期と、その後の持続感染期によって症状が異なります。

①急性期

ウイルスの感染が成立するとまず急性期の症状がみられます。

この時期はウイルスが骨髄に達し、骨髄の細胞内で増殖しようとします。

約4週齢以上の猫では自分の免疫機能でウイルスが増殖する骨髄の細胞を攻撃します。

その結果、発熱・元気消失や全身のリンパ節の腫れがみられます。

また、血液検査では白血球減少症・血小板減少症・貧血などがみられることがあります。

一般的に急性期に軽症、または無症状の場合は一過性の感染で終わり、症状が重度の場合は持続感染になりやすいと言われています。

②持続感染期

急性期の症状が治まり、病気が治ったように見えます。

これは、自分の免疫機能がウイルスに対しての攻撃をやめてしまうからです。

しかし、ウイルスは骨髄の細胞に感染したまま(持続感染)の状態です。

数ヵ月~数年は表面的には健康な状態が続きますが、持続感染した猫の多くは感染から約3年以内に発症し、多くは亡くなってしまいます。

感染後2年で60%、4年で80%が死亡するという報告もあります。

 

ウイルスは骨髄細胞だけではなく体中の様々な細胞に感染するため、多様な病気が起こります。

代表的なものとしては造血器腫瘍(リンパ腫、急性リンパ性および骨髄性白血病、骨髄異形成症候群)、再生不良性貧血、赤芽球癆、流産、脳神経疾患、猫汎白血球減少症(FPL)様疾患などが挙げられます。

また、免疫不全や免疫異常に関連して免疫介在性溶血性貧血(IMHA)などの免疫介在性疾患や糸球体腎炎、免疫不全に関連した疾患としてはヘモプラズマ症、猫伝染性腹膜炎、トキソプラズマ症、クリプトコッカス症、口内炎、気道感染症などの疾患が挙げられます。

これらの病気は見た目だけでは確定診断は難しく、詳しい検査が必要になります。

FeLVに感染して、発病した猫の性別は雄が約70%、避妊去勢手術をしている雄および雌の発症率は未手術の猫に比べて明らかに低いことが知られています。予後は疾患により異なります。中には感染しても自身の免疫機能によりウイルスを排除し陰性となる猫や、発症せずに持続感染し、一生をキャリアで終わる猫もいます。

しかし、同じく猫の感染症であるFIV(猫免疫不全ウイルス:猫エイズ)よりもウイルスの増殖が発症しやすく感染力も強く、多くは長く生きることが出来ません。

 

FeLV感染症の検査

血液検査でウイルス抗原を検出することで検査が可能です。

感染してから約1か月程度経ってからでないと、ウイルスを検出することができないことがありますので、検査を行う時期は獣医師とご相談ください。

一度陽性という結果がでても、陰性に変わる可能性があります。陽性判定が出てから4か月後に再検査して陽性だった場合は持続感染が成立していると確定されます。

検査は院内で実施可能で、10分程度で結果がでます。

 

FeLV感染症の治療

持続感染状態になっている猫から、ウイルスを完全に排除することはほぼ不可能です。症状により治療方法は異なりますが、細菌や真菌の感染には抗生剤や抗真菌薬を使い、免疫系の異常には免疫抑制などの治療、腫瘍に対しては抗がん剤治療が行われます。

 

FeLVの予防

感染させないための一番の予防は、FeLV感染猫との接触を避けることです。

複数の猫を飼育されている場合は感染疑いのある猫との接触を避け、食器の共有も避けた方が良いと言われています。環境の消毒にはアルコール消毒液を使用しましょう。

ワクチンも発売されていますが、接種すれば100%予防できるという保証はなく、アジュバントというワクチン効果の増幅目的で含まれている成分により接種部位に肉腫(がん)ができてしまう可能性があります。同居猫が感染している場合、他の猫に接種するかどうかは獣医師とご相談の上で決定することを推奨します。

見た目では感染の有無がわからないため、脱走には注意し完全室内飼育を心がけることが重要です。

この記事を書いた人

荻野 直孝(獣医師)
動物とご家族のため日々丁寧な診療と分かりやすい説明を心がけています。日本獣医輸血研究会で動物の正しい献血・輸血の知識を日本全国に広めるために講演、書籍執筆など活動中。3児の父で休日はいつも子供たちに揉まれて育児に奮闘している。趣味はダイビング、スキーと意外とアクティブ。