血管がガンになる病気 犬や猫の「血管肉腫」って知っていますか?

動物の全身に走っている血管。この血管を構成する細胞がガン化することがあります。

血管肉腫とは、血管内皮細胞という血管を構成する細胞が原因となる悪性腫瘍のことです。

非常に悪性度が高く、高い確率で全身へ転移すると言われています。

 

血管肉腫が最もよく発生する部位は脾臓です。

血管肉腫は被膜という膜に包まれておらず、非常に脆く破裂しやすい、そして隣接する臓器と癒着しやすいという特徴があります。

進行が速く、破裂して出血が激しい場合には死に至ることも少なくありません。

 

血管肉腫の好発犬種と発生部位

血管肉腫はゴールデン・レトリーバーで最も好発することが知られていますが、ミニチュアダックス、フレンチ・ブルドッグ、コーギーなどの国内で人気の高い小型〜中型犬種においても発生が見られます。

最も多く発生する脾臓、肝臓、心臓(右心房)、その他に皮膚、皮下組織にできることもあります。脾臓に発生する悪性腫瘍の約50%を占めるとも言われています。

このように好発部位はありますが、体のどの部位にもできる可能性がある悪性腫瘍です。

 

血管肉腫の症状

血管肉腫が発生する原発部位によってみられる症状は大きく異なります。

食欲不振、腹囲膨満(お腹がぽっこり膨れて見えること)の症状がみられることもありますし、無症状で健康診断時の画像検査でたまたま見つかることもあります。

脾臓や肝臓に血管肉腫が発生し、それが破裂した場合は腹腔内出血(お腹の中での出血)が起こってしまい。出血が原因により下記のような症状が現れます。

・ショック症状(意識レベルの低下や虚脱など)

・粘膜蒼白(歯肉などの可視粘膜が青白くなること)

・頻脈(脈が速くなること)

・不整脈

・血腹(腹腔内に血液がでている状態)

また心臓に発生する血管肉腫は右心房にできることが多く、腫瘍部分が破裂して血液が漏れると心臓と心臓の周囲を覆う膜である心膜の間に心嚢水が貯留している状態になります。

この心嚢水が多く貯まると心タンポナーデという病態になる可能性があります。

心タンポナーデになり心臓の拍動がうまく行われないと全身へ酸素を送ることができず、運動不耐性(動くとすぐ疲れる)、呼吸困難、不整脈などの症状がみられます。

詳しくはこちらを参照してください。

左の画像は心嚢水が溜まっている状態のエコー画像です。右の画像では心嚢水の部分を分かりやすく水色で示しています。

 

血管肉腫の診断

主に血液検査、レントゲン検査、超音波検査(胸部・腹部)を行います。腫瘍が大きすぎたり、隣接する臓器との関係性がわからない場合はCT検査を行います。

血液検査で明らかに多くみられるものは、貧血、血小板減少、血液凝固異常です。

症状によりますが、DICと言われる状態を示すことがあります。

最終的な確定診断は病理組織診断となります。

しかし、ほとんどの血管肉腫は出血しやすく止血できなくなる可能性もあるため安易な針吸引検査はしないのが一般的です。

皮膚や、皮下組織にできたものに関しては細胞診を行うことがあります。

 

血管肉腫のステージ分類

血管肉腫はリンパ節への転移、肺など他の臓器への遠隔転移の有無などでステージ分類されます。

血管肉腫の予後は非常に良くないと言われています。脾臓にできる血管肉腫の生存期間の中央値は、無治療の場合で約1ヶ月、脾臓摘出をした場合で約3ヵ月、脾臓摘出後に化学療法をした場合で6ヵ月、脾臓摘出後に化学療法と免疫賦活薬を併用した場合で9ヵ月が一つの目安になります。

脾臓以外の部位に発生する血管肉腫については、真皮血管肉腫(真皮下への浸潤なし)の外科切除での生存期間中央値は約26か月、皮下織や筋肉の血管肉腫の生存期間中央値は約5ヶ月、皮下織・筋肉への浸潤がある場合の生存期間中央値は約10ヶ月と報告されています。

心臓にできる血管肉腫は脾臓よりもさらに予後が悪いと言われてり、外科的に切除できたとしても1~4ヶ月程度と言われています。

 

血管肉腫の治療

脾臓や肝臓に発生した血管肉腫の場合は外科的に切除する手術が望ましいです。

しかし、出血による重度の貧血、血小板減少、血液凝固異常がみられる場合や、ショック症状が起きている場合は、まず輸液、輸血などの状態回復処置が行われます。

外科手術にて摘出された脾臓です。腫瘍が破裂し、腹腔内で出血していました。衝撃的な写真のため色を変えております。

 

心臓に発生した血管肉腫の場合には心タンポナーデの症状には心膜を切除し、心嚢膜に血液や浸出液が貯留しないように処置を行います。

右心房に発生した場合も可能であれば切除します。

皮膚血管肉腫は、原発性の場合、必要なマージン(余白)を確保して外科手術で切除します。

血管肉腫は転移する率が非常に高く、外科的手術だけではなく抗がん剤治療も推奨されています。

抗がん剤治療についてはこちらをご覧ください。

 

健康診断で偶然発見することもしばしばで、気付いた時には手遅れなんてことも少なくないのがこの血管肉腫です。

早期発見のためにも定期的な診察とできものや歩き方の異変、呼吸の異変やあざの発見など、いつもと違うところに気づけるようにしておくことが非常に大事ですね。

この記事を書いた人

荻野 直孝(獣医師)
動物とご家族のため日々丁寧な診療と分かりやすい説明を心がけています。日本獣医輸血研究会で動物の正しい献血・輸血の知識を日本全国に広めるために講演、書籍執筆など活動中。3児の父で休日はいつも子供たちに揉まれて育児に奮闘している。趣味はダイビング、スキーと意外とアクティブ。