乳歯が抜けない!歯がなんか多い気がする。犬や猫の乳歯遺残について解説します。

私たち人間の子供の歯が乳歯から永久歯へと生え変わるように、犬猫の歯も乳歯から永久歯へ生え変わります。

種や体格によって個体差はありますが、通常は生後3~4ケ月頃から生え変わり始め、生後6~7ヶ月頃(最大で1歳)にはすべての永久歯が生えそろうといわれています。

通常永久歯は乳歯の歯根を吸収しながら乳歯を押し出すようにして生えてくるため、乳歯は自然に脱落します。

乳歯では後臼歯はなく、生え変わり時期後半に徐々に生えそろっていきます。

()内は「歯式」と呼ばれる数値で、それぞれ「上顎の片側/下顎の片側」の本数を示しています。歯についての詳しいお話はこちらでご紹介しています。

 

しかし、なかには抜けるはずの乳歯が残ってしまい、そのまま永久歯が重なって生えてしまうことがあります。

この状態のことを「乳歯遺残(いざん)」と呼びます。

乳歯遺残は猫よりも犬での発生が多く、チワワやトイプードル、ポメラニアンなどの小型犬で特に多くみられます。

またなかでも良くみられるのは犬歯が遺残しているケースです。

赤く示したのが遺残している乳犬歯です。

 

でもそのうち抜けるでしょ?そんなに問題ないのでは?と思った方もいるかもしれません。

しかし、乳歯遺残によって引き起こされる問題があるのです。

 

「不正咬合」

歯のかみ合わせが悪くなることを不正咬合(ふせいこうごう)といいます。

残った乳歯が邪魔をして、永久歯が正常な位置や向きに生えることができなくなってしまうために起こります。

また、本来とは異なる生え方をした永久歯によって歯と歯がぶつかって摩耗してしまう、歯肉や口唇に当たって痛みや炎症を引き起こしてしまう可能性があります。

ブルドッグなどの一部の品種では不正咬合がスタンダードであることを除けば、本来上下の歯は交互に収まります。

 

「歯周病の原因」

乳歯遺残している状態では、歯が重なり合って生えているために汚れが溜まりやすく、歯垢がつきやすくなります。

この歯垢は犬では3日程度で歯石となり口臭や歯肉炎を引き起こして歯周病の原因となります。

歯周病は進行すると痛みによる食欲不振や、歯根に膿が溜まる歯根膿瘍、永久歯の喪失を招きます。歯周病に関する詳しいお話しはこちらをご参照ください。

また、歯石は歯磨きで除去することは困難です。

一度歯石になってしまったら、全身麻酔下での歯科処置が必要となります。

 

乳歯が残っているときは?

乳歯遺残が認められた場合には全身麻酔下で乳歯抜歯を行います。

前述したとおり永久歯への生え変わりが完了時期は生後6~7ヶ月頃、つまり避妊や去勢手術を実施する期間と重なります。

不妊手術は全身麻酔となりますので、この時一緒に抜歯をすることが多いです。

実際に当院でも不妊手術時に実施することをお勧めしています。

また生え変わり時期である生後5~6ヶ月に診察を受け、生え変わり状況を病院で確認してもらいましょう。

ときおりご家族から「無麻酔で処置できませんか?」とご質問をいただくことがあります。

乳歯とはいえ、歯根がしっかり埋まっている場合もあります。

無理に抜こうとすると途中で折れてしまい歯肉に残ってしまうことや、痛みで暴れてしまいお互いに怪我してしまう原因に繋がりますので絶対にやめましょう。

これは歯石除去といった歯科処置全般にも当てはまります。

 

そろそろおうちの子の歯の状態が気になってきたのではないでしょうか。

まずは口の状態を確認してみましょう。

乳歯である子犬、子猫の頃からおうちのでのデンタルケアを習慣にしましょう。

ケアをするときに歯の生え変わり具合を一緒にチェックしてあげることができるからです。

口の中を見ることができなくても、抜けた歯の数を数えればいいのでは?と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、人間と異なり犬猫はほとんどの場合抜けた乳歯を食事などと一緒に飲み込んでしまいます。抜けた歯の数で生え変わり度合いを確認することは難しいです。ちなみに、飲み込んだ乳歯は便とともに排泄されてしまうので心配はいりません。

 

永久歯への生え変わり時期は口の中がムズムズするといわれています。

このムズムズ感が生じることによって、家具などなんでも齧ってしまうことがあります。

乳歯が抜けるのを促進できるわけではありませんが、ストレス解消などを目的に齧っても差し支えないものを用意してあげましょう。

丸飲みできない大きさのもの、かみちぎって誤飲してしまわないおもちゃを選ぶといいかもしれません。

鹿の角や蹄などは硬すぎて歯が折れてしまうなど傷つける原因になりますので、注意して使用しましょう。

乳歯が抜けるタイミングはそれぞれですが乳歯が残ることで食べ方や今後の生活にも支障をきたすことがあります。

日々のお口のケアと同時に歯の状態も確認し、気になることがあれば病院スタッフにご相談ください。

この記事を書いた人

舘野 友奈(愛玩動物看護師)
ご家族から声をかけていただきやすい雰囲気作りを心がけています。現在は整形外科部門を中心に強化に精を出している。シェルティが大好きで好きなところを語り始めると止まらなくなる一面も。趣味は推理小説を読むこと。個人的に好きな作家は赤川次郎と西村京太郎。