FIV感染症 猫にもエイズがあるって知っていますか?

猫エイズウイルスの正式名称は、猫免疫不全ウイルス(Feline immunodeficiency virus, FIV)といい、FIVに感染することをFIV感染といいます。

FIVはウイルスとしての働きだけでなく、プロウイルスという形態になることがあります。

プロウイルスはウイルスの「スパイ」のような存在で、ウイルスが感染して猫の体に入ったあとで細胞の中に隠れてます。プロウイルスは細胞の中に隠れてFeLVの情報(DNA)を保管しています。ウイルス感染はしていないように見えてもウイルスのDNAが細胞内に取り込まれていることで、ウイルスが増えることがあります。

このようにプロウイルスとして感染していたり、ウイルス自体があまり活動せずに隠れて感染していることを持続感染といいます。

日本では、室内と野外を自由に出入りできる猫の15~30%がFIVに感染しているという報告があり、オスとメスを比べると、オスの方が2倍以上も感染率が高いともいわれています。

FIVは主に、ケンカによって唾液中のウイルスが傷を介してうつると言われています。感染が成立したウイルスは、白血球であるリンパ球、マクロファージなど、免疫を司り身体を守る細胞に

感染しウイルスを産生、免疫機能を破壊してしまいます。感染が成立すると排除は不可能であるといわれています。

 

FIV感染症の症状

病態としては臨床症状により、5つに分類されています。

①急性期(Acute phase, AP)

特にFIV感染と断定できないような非特異的症状である発熱、リンパ節腫大、白血球減少、貧血、下痢などの症状がみられます。感染が成立してから1~2ヶ月で体内のFIV抗体が検出されるようになります。

②無症候キャリア期(Asymptomatic carrier, AC)

名前の通り、症状がない期間です。無症状のまま一生を終える猫もいます。

③持続性リンパ節腫大期(Persistent generalized lymphadenopathy, PGL)

全身性のリンパ節腫大の症状がみられる期間です。

④エイズ関連症候群期(AIDS-related complex, ARC)

この期間に入り免疫異常にともなった症状である口内炎や歯肉炎、上部気道炎(いわゆるネコ風邪)、消化器症状(嘔吐や下痢)、皮膚病などが症状としてあらわれるようになります。

⑤後天性免疫不全症候群期(Acquired immunodeficiency syndrome, AIDS)

本格的に免疫不全の症状が現れ、口内炎や歯肉炎、日和見感染などが起こりやすくなります。口腔内に潰瘍ができたり、歯肉が腫れあがったり、痛みによる流涎(よだれ)、口臭も目立つようになります。ご飯を食べられないことや、下痢により栄養を十分に摂取できず痩せていき、やがて病気に対する抵抗力が落ちていくのが特徴です。

さらに、貧血や汎白血球減少症、神経症状、腫瘍なども症状として現れることがあります。

 

発症するとみられる症状について上記に示しましたが、FIVと同様に咬傷などによって感染する猫の感染症であるFeLV(猫白血病ウイルス)と比較すると、感染していても発症せずに天寿を全うする猫もいることから悲観的にならずにストレスのかからない生活環境を整えてあげることが重要になります。

 

FIV感染症の診断

FIV感染症特有の症状はなく、血液検査によって診断されます。簡易検査キットがあり、数滴の血液で検査が可能です。

この検査キットは抗体を検出するものであるため、検査の時期に注意が必要です。猫はウイルスに感染して抗体を検出できる域に達するまでに1~2か月程度かかります。この期間での検査結果は陰性であっても、陽性の可能性があることがあります。また子猫の場合、母猫からの移行抗体をもっているため生後6か月齢程度までは擬陽性の結果が出ることもあります。そのため、血液検査で最適と考えられる時期は、保護してから2ヵ月以上、かつ生後6ヵ月齢以降です。

検査は院内で実施可能で、10分程度で結果がでます。

 

FIV感染症の治療

ウイルスに対する治療は抗ウイルス薬を使用することですが、実際には使用されることはほとんどなく対症療法での治療が行われます。免疫機能が低下することでおこる二次感染に対する治療がメインです。抗生剤、ステロイド、消炎鎮痛薬、抗真菌薬などが使用されます。

 

FIV感染症の予防

一番の予防はFIV感染猫との接触をさけることです。完全室内飼育によって防ぐことができます。FIVはケンカや咬傷などによって直接激しく接触しなければうつることはありません。保護猫など、感染の可能性がある子を飼育する際は陰性を確認してから同室に入れるなどを心がけましょう。2008年からFIVに対する不活化ワクチンが販売されていますが、製造中止になるなどして使用できなくなることから現在は推奨されていません。

 

まとめ

FIV感染症は必ず発症するというわけではなく、普通の猫と同じように生活し、長生きできるケースもあります。ストレスをかけず、愛情をたっぷり受けられる環境で生活することで発症を遅らせたり防ぐこともできるかもしれません。

猫がお外に出るとFIV以外の他の感染症にかかる危険性もあります。寄生虫や交通事故、いたずら、誘拐など命に係わる事態にもなりかねません。愛猫の健康と安全を考慮して完全室内飼育を心がけましょう。

この記事を書いた人

荻野 直孝(獣医師)
動物とご家族のため日々丁寧な診療と分かりやすい説明を心がけています。日本獣医輸血研究会で動物の正しい献血・輸血の知識を日本全国に広めるために講演、書籍執筆など活動中。3児の父で休日はいつも子供たちに揉まれて育児に奮闘している。趣味はダイビング、スキーと意外とアクティブ。