犬と猫の避妊・去勢手術はした方がいい?メリット、デメリットを解説します。

健康な体にメスをいれて生殖器官を取り除く手術。
愛しい家族の負担を考えると手術を受けさせるべきなのか悩んでしまう飼い主さんも多いと思います。ではなぜ獣医さんは避妊去勢手術を勧めてくるのでしょうか。メリットとデメリットを見ていきましょう。

避妊去勢手術のメリット

・予定していない妊娠の回避ができる

・発情期のストレスがなくなる

乳腺腫瘍の発生率が下がる

・子宮卵巣の病気がなくなる(子宮水腫、子宮蓄膿症、卵巣嚢腫、卵巣腫瘍など)

など

<乳腺腫瘍>

人間と同じように、犬猫ともに死因の第一位を占める腫瘍(癌)。雌犬の場合、乳腺腫瘍は最も発生の多い腫瘍であり、特に8歳以上の高齢の未避妊犬に多くみられます。乳腺腫瘍は良性、悪性の乳腺腫瘍があり、その比率は半分半分と言われてきましたが、特に大型犬では悪性の比率が高いとされています。悪性の乳ガンは、遠隔転移や全身への悪影響により生体に様々な不利益をもたらします。
雌猫の場合、発生率は全ての腫瘍の中でも第3位ですが、実にその8割以上が悪性とされています。

犬では初回発情前(6~8ヶ月齢が目安)に手術を行った場合、避妊手術をしていない犬に比べて乳腺腫瘍の発生率は0.5%と言われています。すでに発情が来ている犬でも避妊手術をする有用性はあると言われています。

猫でも初回発情前(6~8ヶ月齢が目安)に手術を行った場合、6か月齢未満では乳腺腫瘍の発生を91%低下、7~12か月齢未満では86%低下すると言われています。

<子宮蓄膿症>

子宮卵巣の病気も予防することができます。中でも避妊手術をしていない高齢動物に多いのが子宮蓄膿症です。これは発情後に免疫力が下がる黄体期に、大腸菌などの細菌が子宮内に侵入し増殖して起こります。生理が終わったあと、食欲低下、吐き気や外陰部より膿がでてくることもありますが多くの場合、たくさん水を飲んでたくさんおしっこをするといった多飲多尿の症状がみられます。子宮が破裂して膿が腹腔内に漏れてしまうと腹膜炎を起こし短時間のうちに死亡してしまうことがある怖い病気の一つです。

老齢になり体調を崩してから手術をするよりも、若くて元気なうちに予防として避妊手術をするほうが麻酔のリスクも低く術後の回復も早いので、大きなメリットになります。

左が正常な子宮、右が子宮蓄膿症の子宮です。子宮蓄膿症の子宮は内部に膿が溜まっているため腫れていることが分かります。

 

去勢手術のメリット

・足を上げておしっこをしたり、マーキングする行動が軽減される(犬)

・マウンティングが少なくなる可能性がある

・攻撃行動が少なくなる可能性がある

精巣腫瘍の発生がなくなる

・前立腺肥大が予防できる

・おしりの片側もしくは両側が膨らむ会陰ヘルニアのリスクが少なくなる(犬)

・肛門の周りにできる良性の肛門周囲腺腫の発生の予防(犬)

など

<精巣腫瘍>

雄で精巣が片方もしくは両方が鼠径部や腹腔内に残っている状態を潜在精巣といいます。潜在精巣は高齢になったときに高確率で腫瘍化すると言われているため、1歳になっても潜在精巣が続いている場合は、早期の去勢手術をお勧めしています。潜在精巣の状態で精巣が正常な温度よりも高い状態にあると正常な精子を作ることができなくなるため、繁殖には適しません。潜在精巣は遺伝性疾患ですので子供は作らないほうがいいでしょう。

左側の精巣が腫瘍化しており、左右で精巣のサイズが違います。

<会陰ヘルニア>

会陰ヘルニアとは、未去勢の中高齢犬によくみられる病気です。雄性ホルモンがおしりの筋肉を薄くすることで、吠えることや排便時に腹圧がかかったときに筋肉の隙間から腸や膀胱などの近くにある臓器が飛び出てきてしまうことを言います。この状態になるとおしりや肛門の両側が膨らみ、ご家族も異常に気付くことが多いです。会陰ヘルニアが進行すると、自力で排便できなくなったり、尿道が曲がって排尿が難しくなったり、内臓の血行が悪くなり壊死してしまうこともあります。治療には外科手術が必要です。

左側が会陰ヘルニアになっおており、肛門の左側が腫れているのがわかります。

<肛門周囲腺腫>

肛門周囲腺腫は、文字通り肛門の周囲にできる腫瘍です。良性と悪性の診断は病理検査が必要ですが、良性の場合は雄性ホルモン依存性であるため去勢手術をすることで小さくなり、その後の再発も予防できます。腫瘍が化膿していたり炎症を起こしている場合は腫瘍を取り除く必要があります。

避妊・去勢手術のデメリット

・1日の代謝量が減り太りやすくなる

・尿道括約筋の緊張性が弱まり失禁(ホルモン反応性尿失禁)する可能性がある(犬・雌)

・全身麻酔のリスク

・縫合糸に反応を起こし、しこりや炎症が起きる場合がある(縫合糸反応性肉芽腫

<肥満になりやすい?>

卵巣・子宮を摘出すると、ホルモンバランスが変わり1日の代謝エネルギー量が減ることで太りやすくなります。同じ量のごはんでも体重の増加が見られる場合は食事量の見直しやダイエットフードに切り替えることが必要です。ぽっちゃり体系はかわいいですが、犬も猫も糖尿病や膵炎になる可能性があります。避妊・去勢手術後はしっかり食事管理を行って太りすぎに注意しましょう。

<ホルモン反応性尿失禁>

避妊手術を実施した雌犬の4%で発生すると言われており、中高齢の中大型犬で見られます。

尿道括約筋の緊張がゆるむことによっておもらしをしてしまう症状で、発症した場合はホルモン剤を使うことで尿失禁が治まります。

<縫合糸反応性肉芽腫>

縫合糸に反応して「しこり」や炎症が起きる場合もあります。ミニチュアダックス、シーズー、チワワ、シェルティ、マルチーズ、トイプードルや雑種など、様々な犬種で起こると言われていますが、圧倒的にミニチュアダックスで多いです。手術時の縫合糸に反応しておなかの中に腫瘤を作り、治療には外科手術が必要になります。ミニチュアダックスフンドの場合はおなかの中に縫合糸を残さないために血管シーリング装置の使用をお勧めしています。

血管シーリング装置では糸を使わず血管をシールすることが出来る手術器具です。

この記事を書いた人

荻野 直孝(獣医師)
動物とご家族のため日々丁寧な診療と分かりやすい説明を心がけています。日本獣医輸血研究会で動物の正しい献血・輸血の知識を日本全国に広めるために講演、書籍執筆など活動中。3児の父で休日はいつも子供たちに揉まれて育児に奮闘している。趣味はダイビング、スキーと意外とアクティブ。