高齢猫に多い甲状腺機能亢進症。元気なのに痩せてきた?そんなことありませんか?

お家の猫ちゃんが、急に活発になった?たくさん食べてるのに痩せてきた?

それ、甲状腺の病気かもしれません。

 

甲状腺機能亢進症という病気を知っていますか?人間ではバセドウ氏病やグレーブス病ともいわれているのでイメージはつきやすいかと思います。

 

甲状腺ホルモンは体の代謝を司るホルモンの一つで、脂肪や糖分を燃やして細胞の新陳代謝を盛んにする、体が興奮状態になる交感神経を刺激する、成長や発達を促すといった作用があります。

甲状腺機能亢進症になるとこのホルモンが過剰分泌している状態になるため、お風呂に入ったあとに100m全力疾走したときを想像していただけると体には負担が大きいことは容易に想像がつくでしょう。

動物では猫に多くみられる病気の一つで、10歳以上で発症する子が多く、おおよそ10頭に1頭は甲状腺機能亢進症を持っていると言われています。若いと3~4歳からも確認され、発生のしやすさに雌雄の性差はなく、好発品種もとくに報告はありません。

 

甲状腺ホルモンが過剰になると、全身的に様々な症状を起こします。原因は大きく3つあり①甲状腺の癌、②甲状腺腫、③過形成が挙げられます。

 

甲状腺機能亢進症でみられる症状

食べてるのに痩せてくるや興奮傾向などの性格変化が特徴的な症状です。心拍が早くなったり、心臓に雑音が混ざったりと心臓にも異常が出てきます。その他に高血圧、脱毛、よく水を飲む、嘔吐、呼吸が速い、毛ヅヤがなくなるなど様々な症状を引き起こします。

 

甲状腺機能亢進症の検査

甲状腺機能亢進症が疑われる場合、まず血液検査をします。
併発疾患がない限り、血液検査ではALPやALTといった肝臓の数値の上昇以外は見られません。
臨床症状と身体検査などから、疑いが強い場合には甲状腺ホルモン(T4)の検査を行います。T4が5.0㎍/㎗以上であれば甲状腺機能亢進症と確定診断できます。
しかし、甲状腺の病気ではない腫瘍、感染症、内臓の病気があると低い値を示すことがあるため、T4が低いのに甲状腺機能亢進症が疑わしい場合は、それらに影響を受けにくいfT4を合わせて測定するのがお勧めです。
甲状腺機能亢進症と診断された場合、合併症として心臓病や高血圧の管理が必要になることも少なくありません。
また治療をはじめた後に腎障害があらわれてくることもあり、甲状腺機能亢進症の治療をしていても、定期的な検査を行う必要があります。

 

甲状腺機能亢進症の治療

甲状腺機能亢進症の治療は、内服薬と療法食によってコントロールする内科治療と、甲状腺を摘出する外科治療の2通りの選択肢があります。

 

よほど甲状腺が大きく腫瘍化していて、呼吸や飲み込みに障害などなければ内科治療から開始することが多いです。

内科治療はチアマゾールという抗甲状腺薬を投薬して治療をします。

チアマゾールは甲状腺ホルモンの合成を阻害するお薬で、まず低用量から開始し1~3週間ほど体調の変化や様子を見ながら投与量の調節を行います。

味は苦いようで、糖衣のままのませるのが望ましいです。これまでの半分サイズの錠剤が発売されたので飲ませやすくなると思います。

治療がうまくいっているかの指標で、一番わかりやすいのは体重の増加です。

治療を開始して、約1ヶ月した頃に体重が増加していればうまくいっていると言っていいでしょう。

体重が増加しない場合、お薬の量を増加して効果が出るか、副作用がでないかどうかをモニタリングしていくことになります。

※チアマゾールの副作用

副作用がないお薬はありません。チアマゾールも例外ではなく、注意して投与していく必要があります。

チアマゾールの場合は20~30%で副作用を起こす可能性があり、副作用がみられるとすれば投与開始後1~3週間後が多いです。

特徴的な副作用としては顔面の皮膚炎、白血球、血小板の減少がみられます。

投薬をはじめてすぐに顔周りに湿疹が出て痒みが出たり、白血球などの血球の異常が見られた場合は投薬を続けられない場合には、ほかの治療法に切り替える必要があります。

また、甲状腺は活動や代謝を司っていますので、その機能を抑えることで元気がなくなる、ご飯を食べない、嘔吐などがみられます。

※腎機能のモニタリング

甲状腺機能亢進症では、腎臓に流れる血液量が増加し、腎臓障害が隠されます。チアマゾールを飲み始めて約1ヶ月経過するころに腎血流量が正常化してくると高窒素血症がみられ、腎臓病が姿をあらわします。

チアマゾールを減量して軽い甲状腺機能亢進症を保つことで腎臓病を見かけ上抑えることは可能ですが、腎血流量が多くなるということは腎臓に負担になることは懸念されます。

 

内科治療で投薬が難しい場合は食事療法を行うことがあります。

この場合は療法食以外のものを食べさせてしまうと効果がなくなってしまいますので、厳密な食事管理が必要になります。

今まで使っていた食事が混ざらないように食器類をしっかり洗ったり、同居の犬や猫のフード、おやつなど間違ってあげたりしないようにしないといけません。

ご家族の強い心構えと管理体制が必要になってきますが、食事を食べるだけで管理は可能ですので、比較的治療が楽なことが挙げられます。

 

触知できるほどの大きさであれば良性でも外科的に除去する方法が取られることがあります。猫の甲状腺癌のほとんどは被膜に覆われており、癌が広がったり転移が起こることはほとんどありません。

手術後に再発することもあまりないため、完治を期待する場合は外科治療という手段もあるかと思います。

ただし、技術的に難易度が高いのと甲状腺には上皮小体というカルシウムの分泌を司る小さい臓器もくっついており、上皮小体の障害による低カルシウム血症には十分注意が必要です。

このことから外科的切除は積極的には勧めていません。

 

この記事を書いた人

荻野 直孝(獣医師)
動物とご家族のため日々丁寧な診療と分かりやすい説明を心がけています。日本獣医輸血研究会で動物の正しい献血・輸血の知識を日本全国に広めるために講演、書籍執筆など活動中。3児の父で休日はいつも子供たちに揉まれて育児に奮闘している。趣味はダイビング、スキーと意外とアクティブ。