去勢していない男の子は要注意!会陰ヘルニアってどんな病気?

会陰ヘルニアとは?

会陰ヘルニアは文字通り会陰部におきたヘルニアという病気です。

会陰部とは、肛門と外陰部(ペニスの根本や膣前庭)およびその周囲のことを指します。

ヘルニアとは本来の位置から飛び出ているという意味をもっています。椎間板ヘルニアなどの他に臍ヘルニア(でべそ)や鼠径ヘルニア(脱腸)などにもヘルニアという名前がつきます。

犬猫で起きる会陰ヘルニアは、直腸やお腹の脂肪、膀胱・前立腺などが肛門周囲に飛び出てしまう病気のことをいいます。人の出産などで行う会陰切開をイメージされるとなんとなく場所が違うように感じるかもしれませんね。

 

会陰ヘルニアは徐々に進行していく病気です。骨盤隔膜となる筋肉(肛門周囲の直腸を支え、腹腔内の臓器をお腹の中に留めている)がどんどん薄くなって弱くなることで、直腸(文字通り真っ直ぐな腸)が蛇行する、さらにはお腹の中の脂肪、膀胱、前立腺、小腸などが骨盤を超えて肛門側に飛び出してしまいます。

ほとんどの症例が中高齢の未去勢のオス犬で、コーギー、ミニチュアダックスフントでの発症が多く、マルチーズ、トイプードルも好発犬種とされ、他の犬種でも見られることがあります。メス犬、猫での報告もありますが極めて稀です。

 

原因

外傷や手術後の発症以外では、ほとんど全ての症例が未去勢のオス犬で発症していることから、男性ホルモン(テストステロン)の影響が強いと考えられています。しかし、男性ホルモンがどのように肛門周囲の筋肉に作用して、筋萎縮させているのかは分かっていません。また、他にも腹腔内圧の過度の上昇や筋肉を脆弱化させる病態の関与も疑われており、前立腺肥大、便秘症、膀胱炎、肥満、興奮する性格、ホルモン疾患なども会陰ヘルニア発症の一因となる可能性があります。

 

症状

発症初期には肛門周囲が腫れ、排便時のいきみなどの排便障害が見られ始めます。これは、骨盤角膜の筋肉が薄くなり直腸が歪んで肛門左右に糞塊が貯留するために起こります。

このいきみが続くと肛門が後方に移動し、直腸の歪みが重度になることで肛門周囲の腫れが大きくなり、重度の排便困難がみられるようになります。

さらに病態が悪化すると、お腹の中の脂肪や臓器が肛門脇に飛び出してきます。

前立腺や膀胱が入り込んでしまうと尿の通り道である尿道が捻れてしまい、排尿ができなくなってしまうことがあります。

また、小腸が入り込んでしまうと腸内の消化物が通過できなくなり(腸閉塞)、嘔吐が止まらなくなることもあります。

このように尿や便の通過ができない状態や、尿路や小腸が壊死を起こしている場合にはすぐに致死的な状態になりかねないので、緊急に手術が必要になることもあります。

 

診断

犬種や年齢、症状をもとに、直腸に指を入れて触診することで直腸の蛇行、糞塊の貯留を確認することで、診断はさほど難しくありません。

さらにどの程度の病態の進行度合いなのか、腹腔内臓器の異常などが見られないのかなどの画像検査を実施します。

また、発症の原因となりうる膀胱結石、前立腺炎、ホルモンの病気などがないかも同時に検査することをお勧めします。

 

治療

初期の段階では便を柔らかくするお薬を使用したり、糞便量が少なくなるような食事での内科療法を実施したりすることもあります。

しかし、会陰ヘルニアは上述したように、進行していく病気であり自然に治る病気ではないので、外科的な治療が勧められます。手術方法については後で少しご説明しますが、病態が進行しすぎる前に手術をすることで再発のリスクが軽減しますので、症状の軽度な早い段階での手術を検討する方が良いと考えています。

 

手術について

会陰ヘルニアに対する外科的な方法として、現在までに様々な手術方法が開発、検討されてきています。

しかし、いまだにこれが一番良いだろうという手術方法は定まっておらず、どの手術方法をとっても合併症や再発は起こる可能性があるとされています。

そこで、病気の進行度合い、筋肉の薄さ、去勢手術されているか否かなどによって、手術方法を検討します。

手術者の慣れや考え方によっても手術方法は変わってくるかもしれません。

手術内容としては、①ホルモンの関与や前立腺肥大を改善させるための去勢手術、②後方に引っ張られた直腸や飛び出した膀胱、前立腺をお腹の中から引っ張って正常な位置に固定する手術、③肛門周囲の緩んでしまった骨盤隔膜の部位を塞ぐ手術をそれぞれ必要に応じて実施していきます。

③の手術の方法として大きくは生体組織を利用した方法と人工材料を使用した方法の2つに大別されます。

生体組織を利用した方法では、残存する筋肉を引き寄せて縫い合わせる方法や、筋肉を部分的に剥がして筋肉弁として穴やスペースを塞ぐ方法、精巣を覆っていた総鞘膜と呼ばれる生体膜で穴を塞ぐ方法などがあります。

これらの方法では、人工物を極力使用しないために、感染のリスクや異物感が少ないと考えられますが、既に筋肉の脆薄が進行している場合には骨盤隔膜の部位を強固に塞ぐには適さないこともあり、手術方法によっては再発率も高いとされています。

人工材料を用いた手術(近年ではほとんどがポリプロピレンメッシュという網状の医療用合成繊維を使用)では、三角コーンのような形状にした人工材料を骨盤隔膜の部位に埋め込む方法や、しっぽの骨と恥骨に人工材料を引っ掛けることで緩んでしまった骨盤隔膜の肛門挙筋の代替となるように肛門を固定する方法などがあげられます。

これらの方法では、人工物を使用するため異物反応や感染のリスクの増大が懸念点ではあるが、再発率が少ないという報告がいくつかされています。

当院ではヘルニアの程度、肛門周囲の筋肉の状態、犬の性格などを考慮して手術方法をご家族と相談しながら治療方針を決定しております。

また、疼痛、違和感の強い手術であることが想定されるため、硬膜外麻酔なども併用して疼痛管理をしっかりと行うよう気をつけています。

 

術後の管理

手術した後は、手術方法にもよりますが、肛門周囲の手術のため感染予防が大事になります。

排便後には肛門周囲をきれいにしただき、傷口に糞便が付着した可能性のある場合には流水にて洗い流してよく乾かしていただきます。

糞便量のコントロールのために消化性の高いフードに切り替えていただくこともあります。

2週間程度で抜糸が済めば日常通りの生活で問題ありませんが、縫合部位が切れて再発することもあります(どの手術方法でも再発する可能性はあります)。術後1年は再発していないか定期的な診察が必要になります。

発症すると外科手術以外に完治する方法のない病気になります。

手術も左右のお尻周り、去勢手術、開腹手術と4箇所の傷口を作らなければならないことも多いため、好発犬種の場合、若齢での去勢手術をしてあげて予防できると良いなと感じています。便秘症状などで会陰ヘルニアが疑われる際には、早期にご相談ください。