実は緊急治療が必要な病気!犬の副腎皮質機能低下症(アジソン病)を解説します。

アジソン病とは??

アジソン病ってあまり聞きなれない名前ですね。

クッシング症候群(詳しくはコチラをご確認ください)の逆で、副腎の機能が低下する病気で、副腎皮質から分泌されるステロイドホルモンが不足することで様々な症状を起こします。

 

犬で多く、猫ではほとんど起こりません。特に、若年~壮年の雌犬でよく起こると言われていて、欧米ではロットワイラー、グレートデン、スタンダードプードルが好発品種に挙げられていますが、日本では小型犬種が多く特になりやすい犬種は記載されていません。逆にどの犬種でもなる可能性があると言っていいでしょう。

 

生体は、体の状態を一定に保つためにホルモン分泌を巧みにコントロールしています。

ホルモンが分泌されて効果が発揮されると、ホルモン分泌を抑制する方向に働きかけます。これをネガティブフィードバックといいます。

アジソン病は大きく2つに分けられます。

①原発性(副腎皮質自体に問題がある場合)

 

②二次性(下垂体の副腎皮質刺激ホルモン:ACTH分泌不全によるもの)

多くの場合、ミネラルコルチコイド(※1)とグルココルチコイド(※2)の両方が不足してアジソン病と呼ばれますが、まれにグルココルチコイドだけが不足する症例もあり、これを「非定型アジソン病」と言います。

※1 ミネラルコルチコイド:塩分と水分のバランスに関係するホルモンのこと。代表的なものはアルドステロンで、ナトリウムの再吸収を促進する働きがあります。

※2 グルココルチコイド:糖質、タンパク質、脂質、電解質などの代謝や、免疫反応などに関係するホルモンのこと。おもにコルチゾールのことを指し、外傷や感染などの炎症反応はグルココルチコイドによって抑制するように働きます。

また、物理的・精神的ストレスがかかるとACTHの分泌が亢進してグルココルチコイドの分泌が増加してストレスから体を守ろうと働きます。

動物にストレスが加わるとコルチゾールの要求量が増加するため、ストレス時には臨床症状が現れやすくなります。この時にショック症状を起こすことがあり、その状態を「アジソンクリーゼ」と呼びます。

アジソンクリーゼは緊急治療が必要な危険な状態です。

 

アジソン病の症状

すべてはコルチゾールのホルモン不足から起こります。

・食欲の低下

・なんだか元気がない

・嘔吐

・下痢

・なんか震えてることが多い

・多飲多尿(お水をたくさん飲んでおしっこをたくさんすること)

・低血糖

・ショック(アジソンクリーゼ)etc…

 

アジソン病の診断と治療

臨床症状、血液検査、超音波検査、ホルモン検査が行われます。

血液検査では電解質の測定が最も重要です。80%の症例でみられる異常が電解質の異常で、低Na血症と高K血症です。循環血液量の低下によって軽度のBUN上昇がみられることもあります。

腎臓病に間違われることも多いので、腎臓病が疑わしい場合は腎臓に特化した指標も検査項目にいれます。

グルココルチコイドの低下により低血糖になることもあり、さらに高Ca血症になることもあります。

確定診断はACTH刺激試験を行います。ACTH刺激試験はACTHを注射で外から入れることで副腎からのコルチゾールの分泌を最大まで引き出し、1時間後のコルチゾールの値によって診断します。

検査は午前中、安静(お散歩も含む)・絶食状態で行います。より正確な検査結果を得られるようにするため、担当の先生からの注意事項をよく聞いて検査に臨みましょう。

ACTHを入れると通常であれば副腎が反応してコルチゾール値が上がりますが、アジソン病の場合はコルチゾール値があがってきません。投与後のコルチゾール値が3.0㎍/㎗未満であれはアジソン病と診断できます。

その他、補助的な検査として血清アルドステロンを測定することもあります。アジソン病の場合はACTH刺激の前後ともに10pg/㎖未満を示します。

超音波検査では、ほとんどの場合、副腎が働いていないので萎縮している副腎を確認します。とても萎縮していると発見できないこともあります。

さらに積極的に検査を行うとすればMRIやCTで脳内や他の臓器の状態も確認します。

 

アジソン病の治療

重症度によって異なりますが、最も状況が悪いアジソンクリーゼの場合から解説します。

アジソンクリーゼとはいいかえれば副腎機能不全です。ショック症状の改善が必要です。循環血液量を点滴により補充しで、足りないホルモンを注射で補います。

アジソンクリーゼから回復した後、もしくは緊急治療が必要ではない場合は維持療法となります。維持療法では内服薬を1-2種類使用します。

お薬を初めてすぐの期間は、体調の変化に注意し、食欲の低下や元気がなくなったり、マイナスの変化が起きる場合は様子を見すぎることは危険です。

状態が安定するまで、定期的に受診と血液検査を行いながらモニタリングしていかなければなりません。基本的には長期にわたっての投薬が必要になるケースがほとんどです。

勝手に薬を減らしたり、飲まなくするとアジソンクリーゼを起こすなど危険な状況になりますので、用法・用量を守って投薬を行いましょう。また、ストレスをかけるとアジソンクリーゼを起こすことがあるので、普段の生活にも注意をしていきましょう。

 

アジソン病は、一見すると大した病気に思われないかもしれません。しかし、放っておくと命にかかわることもある病気です。 完治が難しい病気ですが、ご家族が愛情を持って接し、投薬を続けていれば、健常なと変わらずに長生きできる病気です。

普段と何か違うなと感じるときは、動物病院に相談しましょう。いろいろな病気を早期発見できることにもつながります!

この記事を書いた人

荻野 直孝(獣医師)
動物とご家族のため日々丁寧な診療と分かりやすい説明を心がけています。日本獣医輸血研究会で動物の正しい献血・輸血の知識を日本全国に広めるために講演、書籍執筆など活動中。3児の父で休日はいつも子供たちに揉まれて育児に奮闘している。趣味はダイビング、スキーと意外とアクティブ。