高齢犬に多いホルモンの病気、クッシング症候群をご存知ですか?

水をとてもよく飲む!毛が薄い気がする、、、。おなかがずっと張ってる?!という症状が気になっている方がみられているのではないかと思います。
それ、ホルモンバランスの異常かもしれません。

 

動物病院を受診したときに、ホルモンの検査をしましょうと言われたけど何の検査かわからない!という経験はありませんか?

猫よりも圧倒的に犬で多いクッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)について解説していきます。

 

クッシング症候群はどんな病気?

生体は、体の状態を一定に保つためにホルモン分泌を巧みにコントロールしています。

ホルモンが分泌されて効果が発揮されると、ホルモン分泌を抑制する方向に働きかけます。これをネガティブフィードバックといいます。

 

コルチゾール(副腎皮質ホルモン)というホルモンがあります。ストレスホルモンとも呼ばれ、ストレスによっても分泌されますが、炭水化物、脂肪およびタンパク質の代謝をコントロールする体にとって必要不可欠なホルモンです。

脳の下垂体視床下部という部分から、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)というコルチゾール分泌を促進するホルモンが分泌されて、それが副腎に届くとコルチゾールが分泌されます。

ACTHとコルチゾールの分泌のイラストです。

体内では常にネガティブフィードバック機構が働き、十分量のコルチゾールが分泌されると、脳に指令がいきACTHの分泌がストップします。

 

クッシング症候群は大きく分けて3つの原因により、コルチゾールが分泌されすぎて症状が出るといった病態のことをさします。

①下垂体性クッシング症候群(pituitary-dependent hyperadrenocorticism : PDH)

脳下垂体の腫大やがん化が原因で、ネガティブフィードバックを無視してコルチゾール分泌を促進するホルモン(ACTH)が出続け、副腎皮質ホルモンも分泌し続けてしまうという状態になるということです。全体の90%を占めます。

PDHの病気をイラストにしました。ネガティブフィードバックが効かず、脳からACTHが出続ける状態になりコルチゾールが分泌され続けます。

②副腎腫瘍(adrenau tumor : AT)

副腎の腺がん、腺腫が原因で、とても稀に過形成も報告があります。副腎自体が勝手に働いてコルチゾールを分泌してしまうので、体はコルチゾール過剰となります。全体の10%程度を占めます。

下垂体は正常に働いているのでネガティブフィードバックを受けてACTH産生は抑制されます。

ATの病気をイラストにしました。副腎が腫瘍化することでコルチゾールの分泌が止まらなくなります。

③医原性クッシング症候群

アトピー性皮膚炎や自己免疫性疾患の治療でステロイド薬を長期間使用し続けることで、クッシング症候群と同じような症状を示す状態をいいます。この場合は他の2種類と比較して副腎の機能はもともと正常でしたがステロイド薬の投与により副腎が小さくなってしまっており、症状はクッシング症候群と一緒ですが体の中は副腎が機能低下している状態になっています。

 

クッシング症候群の症状

下垂体性と副腎腫瘍のどちらもコルチゾールの過剰によるものであるため、目に見える症状はほとんど同じです。

多飲多尿(たくさん水を飲んで、たくさんおしっこをする)、皮膚が薄くなる(菲薄化)、左右対称性の脱毛、腹囲膨満(おなかが常に張っている)、皮膚の石灰化や感染症の増加などもみられます。

呼吸に必要な筋肉の萎縮や肝臓の腫大によって胸腔が圧迫されることで、呼吸が速くなることもあります。

お腹の皮膚が薄くなり、血管が透けて見えます。他に皮膚がしわしわになってきます。

コルチゾールが過剰になることでお腹に脂肪がたまり、また肝臓が大きくなります。筋肉も低下することで、お腹だけがぽっこりと膨らんで見えるようになります。

 

クッシング症候群の診断

クッシング症候群の診断は、臨床症状、血液検査、超音波検査、ホルモン検査が行われます。ほとんどの場合、臨床症状として多飲多尿、腹囲膨満がみられることが多く、異常を疑って検査を開始します。

血液検査では肝臓の数値の上昇。コレステロール値の上昇がみられます。おしっこが薄いので尿検査も行い、低比重であることを確認します。

左が正常な尿の色、右が薄い尿(低比重尿)です。色が薄くなり無色透明に近づきます。

 

超音波検査では、肝臓や副腎の大きさを確認します。ほとんどの場合で肝臓が大きくなっています。さらに積極的に検査を行うとすればMRIやCTで脳内や他の臓器の状態も確認します。

クッシング症候群であると強く疑われたら特殊なホルモン検査を行います。ACTH刺激試験とLDDST(低用量デキサメタゾン抑制試験)の二種類があります。

ACTH刺激試験は、過剰なACTHを注射して副腎からのコルチゾールの分泌を最大まで引き出し、1時間後のコルチゾールの値によって診断します。

検査は午前中、安静(お散歩も含む)・絶食状態で行います。より正確な検査結果を得られるようにするため、担当の先生からの注意事項をよく聞いて検査に臨みましょう。

LDDSTは、正常な視床下部-下垂体-副腎の機能を持っている子に低用量のステロイド剤を注射することで、ネガティブフィードバックによりACTHが抑制されてコルチゾールの分泌が抑制されるかどうかによって正常か異常かを確認する検査です。この検査には8時間かかるため、厳密に行うことが難しいのが現実です。

 

クッシング症候群の治療

体の中でコルチゾールが作られないようにするトリロスタンの内服薬の使用がメインになります。

投与量によって効果が出すぎることもあり、副腎皮質機能低下症を引き起こす可能性もあります。お薬を初めてすぐの期間は体調の変化に注意し、食欲の低下や元気がなくなったり、マイナスの変化が起きる場合は様子を見すぎることは危険です。状態が安定するまで、定期的にモニタリングしていくことをお勧めします。

医原性クッシング症候群ではステロイド薬を長期間使い続けてきた場合にはいきなり休薬すると危険です。徐々にステロイド使用を少なくしてリバウンド症状が出ないようにしていきます。

下垂体の腫大やがん(①PDH)は放射線治療と手術の選択肢がありますが、手術は難易度が高く現実的ではありません。症状によって大学病院などで放射線治療を行うことをお勧めします。

副腎腫瘍(②AT)の場合は、大きくなった副腎を手術によって取り除くこともあります。副腎腫瘍が大動脈の中に浸潤して大きくなっている場合、血流が止まってしまうと死亡するので外科的治療が必要になってきます。しかし、クッシング症候群の場合、血管が脆くなっていて大出血の心配があったり、傷口が治りにくいということも懸念されるため、非常に慎重に治療法を選択するべきでしょう。

多くの症例では内服薬によってコルチゾール分泌を抑制して症状を改善することが可能ですが、管理が難しい場合はその他の治療法を提案しています。

 

クッシング症候群は、一見すると大した病気に思われないかもしれません。しかし、放っておくと命にかかわることもある病気です。

よくお水をのんだり、おしっこの量が増えたり、普段と何か違うなと感じるときは、動物病院に相談しましょう。クッシング症候群だけでなく、いろいろな病気を早期発見できることにもつながります!

 

猫のクッシング症候群

猫のクッシング症候群は、犬と比較するととても発生が少なく、犬のようにわかりやすい症状もあまりありません。

初期症状は多飲多尿、高血糖、さらに尿糖もみられることが多いです。ほとんどが糖尿病を併発しており、インスリン抵抗性があることで気づくことが多い病気です。

症状が進むと、毛が抜けたりボソボソになったり、皮膚がすごく弱くなって裂けたり感染したりします。診断は症状や超音波検査などにより行いますが、診断がつかないことも多い病気です。

軽度の症状で投薬に反応し糖尿病のコントロールがうまくいけば皮膚症状も改善しますが、徐々に進行し、治療に反応しなくなってきます。糖尿病のコントロールができない場合や皮膚症状がとても悪く発症している場合には、全身状態を保つことが難しくなるため、あまり見通しがいい病気ではありません。