風邪に似ている怖い病気 犬のジステンパーウイルス感染症について

犬と一緒に暮らしていらっしゃるご家族は、混合ワクチンを子犬の時に(1歳まで)に数回、その後数年ごとに動物病院にて接種をしているかと思います。

今回は混合ワクチンで予防できる感染症の中から、ジステンパーウイルス感染症に関して詳しく解説します。あまり聞き馴染みはないかと思いますが、実はとても怖い感染症です。

混合ワクチンとジステンパーウイルス感染症以外の感染症についてはこちらをご覧ください。

 

ジステンパーとは犬ジステンパーウイルスによる感染症で、非常に感染力が高く感染すると50〜90%が死亡してしまう感染症です。

犬ジステンパーウイルスは犬だけでなく多くの動物に感染することが分かっています。犬を中心として犬科、猫科、イタチ科、アライグマ科さらにイノシシやサルにもかかり、中でもフェレットは症状が非常に重篤になります。

猫にも感染するとされている犬ジステンパーウイルスですが、猫においては発症が報告されていないため猫の混合ワクチンの中には含まれていません。

また、一度ジステンパーウイルスに感染すると生涯ジステンパーウイルスに対抗するための免疫をもつことが出来ます。

 

感染経路

ジステンパーウイルスはウイルスに感染した犬との直接接触、鼻水などの分泌物、便や尿などの排泄物との接触、くしゃみや咳の飛沫の吸引により感染します。

また、ジステンパーウイルスはかなり伝播力が強力でこれらに接触するだけで簡単に病気がうつります。

そのため感染した犬と同居の犬がいる場合には、感染している犬やその犬の分泌物や排泄物との接触は避けなければなりません。そして、感染後半年間は糞便中にウイルスの排泄があると言われているため、その期間は接触させないようにする必要があります。

またワクチン未接種の子犬は感染しやすいため、子犬の期間のワクチンプログラムが完了していない間は、ほかの犬との接触はなるべく避けた方がいいでしょう。

 

診断

血液検査をすることもありますが、血液検査の結果からはジステンパーウイルス感染症を確定することはできません。ジステンパーウイルス感染症を診断するには、基本的には発熱や呼吸器症状、消化器症状、神経症状が見られるほかの病気を除いた上で、症状とウイルス検査を合わせて確定します。

しかし、ワクチン未接種の子犬やジステンパーウイルスに対する免疫が不完全と思われる子犬で症状が見られた場合や、ワクチン接種歴や年齢に関係なく風邪のような症状に加えて痙攣などの神経症状が認められた場合は、ジステンパーウイルス感染症を疑う必要があります。

ウイルス検査には、ウイルス遺伝子を検出するもの、抗原を検出するもの、ウイルスに対する抗体を検出するものがあります。

写真はパルボウイルス感染症のキットになりますが、ジステンパーウイルス感染症も同様のキットで検査を行います。

 

症状

ジステンパーウイルス感染症には子犬においてよく見られる急性、その後に見られる亜急性、成犬になってから見られる慢性の症状があります。

・急性期

感染後1〜2週間ほどで見られ、まず1回目の発熱が起こり、その後平熱に戻った後2回目の発熱が起こります(2峰性発熱)。

この時点で黄色い鼻水やくしゃみ、咳などの呼吸器症状、下痢や嘔吐などの消化器症状、目脂や充血などの眼症状などが認められるようになります。

また、ハードパッドと呼ばれる肉球がなる硬くこともあります。

・亜急性期

急性の症状から回復した後や、特に症状がなく急性期を過ぎた犬で数週間から数ヶ月経ってから神経症状が見られることがあります。

具体的には痙攣、震え、歩様異常などが見られます。この段階で死亡してしまう場合も多く、回復したとしても後遺症が残ることがあります。

・慢性期

老齢になってからジステンパーウイルス感染症を発症する可能性があることが確認されており、ワクチンを接種していても発症の可能性があります。

痙攣や麻痺などの神経症状や目が見えなくなったり、性格の変化、痴呆などの老犬脳炎と呼ばれる症状が見られます。

・その他の症状

妊娠している犬が感染した場合は流産を起こすことがあります。また、発育中の子犬が感染した場合は歯が褐色に変色することがあります。

 

ジステンパーとよく似た病気としてケンネルコフという感染症がありますが、こちらは咳などの症状は同じでも神経症状などの命に関わる症状がないことが多いです。

 

治療

残念ながら犬ジステンパーウイルス自体に直接効くような薬はないため、基本的には症状に応じた治療を行います。また、免疫力が低くなるため細菌の二次感染を防ぐための治療を行います。

具体的には全身状態をよくするために点滴や食事管理で十分に水分と栄養を補給し、下痢や嘔吐には下痢止めや吐き気止め、肺炎症状には痰を出しやすくする薬や気管を広げる薬を使用します。

細菌感染の予防には様々な種類の細菌に広く効く抗菌薬を使用します。

また、神経症状が見られる犬には抗痙攣薬や炎症を抑えるためにステロイドを用いることがありますが、あまりに神経症状が酷い場合にはその後回復する見込みが少ないとされています。

 

予防

予防にはジステンパーウイルスのワクチンを接種することが有効とされており、特に子犬の時期は適切な時期と間隔で接種を行うことが大切です。

ジステンパーウイルスのワクチンはコアワクチンと呼ばれるすべての犬に推奨されているワクチンの一つです。当院にある5種混合ワクチン、7種混合ワクチンにはジステンパーウイルスワクチンが含まれています。

また、フェレットは犬よりも死亡率が高いため犬同様にワクチン接種が重要になります。そしてフェレット用のワクチンは日本にはないため、犬用の混合ワクチンの使用が主流です。

ただあくまで犬のジステンパーウイルス感染症に対するワクチンであるため、ワクチン接種をしていても発症のリスクがあることは、ご理解いただく必要があります。

 

ジステンパーウイルス感染症は怖い病気ですがワクチン接種で十分に予防可能です。

大切な愛犬を守るためにも、定期的なワクチン接種を心がけていきましょう。

この記事を書いた人

海野 広夢(獣医師)
一人一人に寄り添った診療ができるようご家族様の話に耳を傾け、お気持ちを汲み取れるように心がけています。外科、救急医療分野の技術向上のため多くのセミナーを受講し、腕を磨いている。趣味はバイオリンと映画鑑賞。アクションやSFが好きでスターウォーズのダースモール推し。