突然後ろ足を挙げて痛がっている 犬と猫の股関節脱臼ってどんな病気?

股関節脱臼とは

犬や猫も人と同様に「股関節」があり、骨盤のカップ状の部分(寛骨臼)に大腿骨の根元の丸いボール状部分(大腿骨頭)が接続しています。寛骨臼と大体骨頭は円靭帯という靭帯で繋がれていて、関節周囲は関節包という膜で覆われています。

種々の原因で円靭帯が断裂し、関節包が破けることで、大腿骨頭が寛骨臼から外れてしまった状態を股関節脱臼といいます。大抵の場合は強い痛みを伴い、その後脱臼した肢を挙げて歩きづらそうにすることが多いです。

まれに脱臼をしていても慢性化して慣れてしまっているのか上手に足を使って歩き、ぱっと見ただけでは症状がない場合もあります。

 

原因

円靭帯が断裂する原因として下記のものがあります。

外からの強い力

股関節脱臼の原因として交通事故や高いところからの落下、激しく何かにぶつかるなどがまずは考えられます。それだけ強い衝撃が起きたと想定される場合には、脱臼と一緒に骨盤や太ももの骨(大腿骨)の骨折などを伴うこともあります。

構造上の問題

先天的に股関節の形態に異常をきたしていると脱臼しやすくなります。大型犬-超大型犬では、成長期に体の成長が成長速度に追いつけないことで股関節形成不全を起こしてしまうことがあります。

また、小型犬でもレッグペルテス病という大腿骨頭の壊死、炎症などによって股関節の構造に異常をきたすことも原因となります。

ホルモンの病気

他にもホルモンの病気(甲状腺機能低下症やクッシング症候群など)によって筋肉量の低下があると発症しやすくなるとも言われています。

 

症状

ほとんどの場合で何かのきっかけで痛がる様子が見られた後、脱臼した後ろ足を地面につけることができずに後ろ足を挙げて残りの3本足でなんとか歩こうとする様子がみられます。また、痛みが強いために触られたり抱っこされたりするのを嫌がることもあります。

股関節形成不全やホルモンの病気などが原因となり慢性的な経過で脱臼した場合には、見た目でわかるような症状がない場合もあり、脱臼している足を使いながら歩行していることもあります。

 

検査

まずは、立ち方/歩き方の確認をし、その上で触診をしていきます。骨盤と大腿骨の位置関係や疼痛部位などを確認し、他に痛みを感じる部位や違和感がないかなどを確認します。

次にレントゲン検査を行なって脱臼のパターンの確認、他の骨折などが見られないかを調べます。

疼痛が強いことが多いので足を伸ばすような撮影ポジションが難しく、少し歪んだレントゲン写真になることも多いです。そのため、鎮静/鎮痛剤などを使用してから再度レントゲン検査を行なったり、麻酔下でのCT(断層レントゲン撮影)検査をしたりと詳細な確認が必要な場合もあります。

 

脱臼する方向

脱臼のパターンとして、骨盤のどちら側に脱臼したかで2パターンに分かれます。

頭背側脱臼は大腿骨頭が骨盤の背中方向に脱臼するもので、こちらがより一般的とされています。人では後方脱臼と表現されていますが、股関節脱臼の大半を占めると言われています。

もう一つのパターンである尾腹側脱臼では、反対に大腿骨頭が骨盤のお腹方向に脱臼した状態をいいます。

 

治療

股関節脱臼の治療にはメスを入れない非観血的な整復方法と、メスを入れる観血的整復(外科手術)とを検討する必要があります。治療をせずに時間を置くと関節周囲の炎症と関節軟骨の変性、筋肉量の低下を引き起こしていくため、より早期の治療が望まれます。

関節の形態的な異常や骨折が見られる場合を除いて、非観血的な整復方法をまずは考慮します。

非観血的整復は脱臼した足を引っ張って大きく捻りながら、寛骨臼に大腿骨頭を滑り込ませるようにして股関節をはめ込みます。脱臼した方向によって足を捻る向きが変わりますが、かなり強い力で足を引っ張らないと戻せません。ただでさえ疼痛の強い脱臼なので、全身麻酔をかけて鎮痛剤を使用しての処置になります。

また、整復後は数日間-2週間程度の包帯固定が必要になります。

頭背側脱臼ではエーマースリング包帯法、尾腹側脱臼ではホブル足枷包帯法がそれぞれ用いられます。

包帯による皮膚へのトラブルも割と多いため注意深い観察も必要です。非観血的整復では約50%は再脱臼を起こすと言われており、その際は観血的な外科手術が必要となります。

観血的整復にもさまざまな手術方法があり、関節の状況などを考慮しながら手術方法を選択します。関節の状態が比較的いい場合は、関節包再建手術やトグルピン法といった方法を用います。大腿骨頭を正常な位置に戻し、関節周囲が安定化するのを期待します。

手術後には上記の非観血的な整復法で用いる包帯法を用いて整復の補助を行います。関節の形状に異常が見られる場合や前述の手術では治癒しないと思われる場合には、救済的な手術として大腿骨頭骨頚切除術や股関節の全置換術などを実施します。

大腿骨頭骨頚切除術では大腿骨頭部分を切り取ることで疼痛を解消します。徐々に、偽関節を形成し、歩行機能が維持されます。

日本で飼育されている多くの小型犬ではこの方法でも日常的な生活に支障がない程度までは回復します。

どの方法を用いても85-90%で良好な足の機能を回復させられると言われています。

 

予防

高いところから落ちたり、滑って転んだりなどをしないようにさせることが一番の予防になります。散歩中に強い衝撃を受けないよう注意しつつ、無理な運動は極力避けるようにしましょう。

また、体重が重い場合には関節に余計な負担がかかりやすくなりますので、体重の管理は心がけましょう。

普段から歩き方をよく観察してあげるようにして、違和感を感じたら動物病院へ早めにご相談ください。

この記事を書いた人

南 智彦(獣医師 外科部長)
日本獣医がん学会、日本獣医麻酔外科学会に所属し外科部長として多くの手術症例を担当。犬猫からよく好かれ診察を楽しみにして来てくれることも多く、診察しながらずっとモフモフして癒してもらっていることも。見かけによらず大食漢でカップ焼きそばのペヤングが好き。1児の父であり猫と一緒に暮らしている。