お腹が膨れてきた。ただの肥満?それとも病気?犬や猫に起こる、知っておきたい症状「腹囲膨満」とは

「最近、わが家の犬や猫のお腹が大きく張ってきているかも?妊娠の可能性は低いし、食欲はむしろ減っている・・・」なんてことが起こるかもしれません。

腹囲膨満は、単なる肥満や食べすぎや妊娠だけでなく、さまざまな病気が原因で起こることがあります。どのような病気が考えられるのか、解説していきます。

 

考えられる病気とその原因

犬の腹囲膨満の原因には以下のようなものがあります。

上の図に挙げたそれぞれの原因にはいろんな疾患が関連しています。一部例を挙げてご説明します。

 

臓器の腫大

臓器の腫大としては悪性腫瘍、いわゆるがんが腹腔内の臓器に発生した場合や子宮蓄膿症といった子宮に膿が貯まる病気などが挙げられます。 子宮蓄膿症についてはこちらをご覧ください。

また、腫瘍に限らず様々な原因で肝臓や脾臓などの臓器自体が腫れぼったくなること(肝腫・脾腫)もあります。他にも、妊娠すると子宮が拡張して中に胎仔ができるため腹囲膨満になります。

 

液体の貯留

液体の貯留として腹水の原因にはさまざまな疾患が挙げられます。

右心不全やフィラリア症などの心臓疾患では循環が悪くなりうっ血することで腹水が貯留することがあります。フィラリア症についてはこちらをご覧ください。お腹の中の臓器にできた悪性腫瘍でも腹水がたまることがあります。

さらに、肝機能の低下によって蛋白が作れなくなることや、腸の粘膜や腎臓などからタンパク質が漏れてしまうことで低タンパク血症になり腹水貯留が見られます。

 

ガスの貯留

特に短時間・短期間で腹部が張ってきている場合は、緊急性が高い可能性があります。

例えば胃拡張捻転症候群腸閉塞などによって消化管内にガスがたまることで腹囲膨満が起こります。胃拡張捻転症候群についてはこちら、腸閉塞についてはこちらを参照ください。

その他消化管内にガスがたまるものとして消化管寄生虫感染などといった感染によるものなどがあります。

 

その他

泌尿器疾患が原因となると腎結石や尿管結石、尿道結石、腫瘍などにより腎臓や膀胱に尿が異常に貯留して膨らむことでおなかが膨れて見えることがあります。

その他クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)という内分泌疾患において脱毛、筋肉や皮膚が薄くなり(菲薄化)、お腹が膨らんで見えるようになります。クッシング症候群についてはこちらをご覧ください。

 

このように「腹囲膨満」という一つの症状にも様々な原因が考えられます。

そこで原因となる疾患を探していくために腹囲膨満以外にみられる症状を確認する必要があります。

腹囲膨満以外にみられる症状として、

元気や食欲の低下:活力や食欲が低下している場合、何らかの病気が進行している可能性があります。

肋骨が目立つ:腹部が膨らんでいるのに肋骨が目立つ場合、筋肉や脂肪が減少している可能性があります。内分泌疾患や腫瘍などの疾患の影響で筋肉量が落ちる一方で腹囲膨満となることがあります。

多飲多尿:水を大量に飲み、尿の量が増えている場合、内分泌疾患の可能性があります。

消化器症状:嘔吐や下痢などがある場合、消化器疾患の疑いがあります。

呼吸が荒い:心疾患が原因となる場合、胸の中にも水が溜まる(胸水・肺水腫)などといった変化が起こる為、呼吸が荒くなることがあります。また、腹部が膨らむことで圧迫され呼吸がしにくいことがあります。

 

検査

腹囲膨満には前述のように様々な疾患が原因となります。原因を特定するために、以下の検査を行います。

身体検査:腹部膨満以外の異常が見られないか視診、触診や聴診などによって確認します。

血液検査:原因を特定するために全身状態の評価をします。

画像検査:X線や超音波検査で腹部膨満の原因が腹水なのか臓器が大きくなっているからなのかなどを確認します。

正常犬の腹部レントゲン。腹水貯留が無いため消化管壁など臓器の境目が確認できる。

 

腹水貯留が認められた犬の腹部レントゲン。腹水貯留によって臓器の境目がはっきりせず、消化管内の空気のみが確認できる。

 

腹水検査:画像検査によって腹水の貯留がみられた場合、その腹水の性状から腹水が溜まっている原因を判断します。

尿検査:尿の成分を調べ、泌尿器系の異常がないか確認します。

便検査:寄生虫感染や消化器系の異常がないか確認します。

 

治療・処置

治療は、原因となる疾患に応じて内科治療や外科治療が行われます。

内科治療:原因となるそれぞれの疾患に対して薬物療法や食事療法などで症状の改善を目指します。

外科治療:腫瘍の摘出や捻転の解除など、外科的な処置が必要な場合があります。

腹水抜去:腹水が大量に溜まっている場合、抜去するケースがあります。腹水抜去は疾患を治すことはできませんが、呼吸が苦しいなどの状態を一時的に改善してあげることができます。

 

異常な場合の見分け方

腹囲膨満が見られ、以下のような症状がある場合は、すぐに獣医師に相談することお勧めします。

・急激な腹囲の変化

・肋骨が目立つ

・元気や食欲の低下

・飲水量と尿量の増加(多飲多尿)

・下痢や嘔吐が慢性的にみられる

・呼吸が荒い

 

病気に気付くために

病気の早期発見は健康を守るため定期的な健康管理が大事です。

日頃から体重測定、排尿や排便の状況を観察し、定期的な健康診断や家族間での健康状態や気付いた異変を共有しましょう。また、フィラリア症や消化管寄生虫などといった感染も原因になるため予防薬の投薬も忘れないようにしましょう

少しでも変だな、と感じた場合は早めに獣医師に相談しましょう。

 

この記事を書いた人

石井 (ALL動物病院行徳院長 皮膚科学会認定医)
皮膚疾患に悩むご家族をはじめ、ご来院のみなさまにご相談していただきやすいような雰囲気づくりに努め二人三脚での治療をしています。2児の父で特に好きな犬種はプードル。日頃の運動不足解消のため暑さ寒さに負けず自転車通勤している。
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