犬の肛門嚢アポクリン腺癌
この記事の内容
当院で実施した外科症例について紹介します。
今回は犬の肛門嚢アポクリン腺癌の症例です。
※術中写真が表示されますので苦手な方はご注意ください。
症例情報
プロフィール
犬 ミニチュアダックスフンド 避妊雌 13才10か月
来院理由
肛門から出血 排便痛あり
既往歴
特になし
所見・経過
肛門の5時方向に1cm大の腫瘤(しこり)あり、表面から出血が認められる
同時に右肛門嚢に5mm大、左肛門嚢に2mm大の腫瘤が触知された
それぞれ細胞診検査を実施
細胞診結果から左右肛門嚢は肛門嚢アポクリン腺癌の可能性が高いと判断
肛門の腫瘤は抗生剤の使用により消失した

外科手術
アポクリン腺癌は悪性腫瘍であるため病理組織検査および治療として左右肛門嚢の切除術をおこなった。事前の全身検査では明らかな転移は認められなかった。
1.全身麻酔後、術野の毛刈り・消毒を実施。手術による痛みの軽減のため、仙尾椎硬膜外麻酔(局所麻酔)も併せておこなった。
2.肛門嚢の入り口に鉗子を入れ、皮膚・粘膜を切開。

3.切開したところから周囲組織と肛門嚢を剥離。

4.導管と肛門嚢を切除し、肛門粘膜・皮膚切開部を縫合

5.同様に反対側も切除

病理検査結果
左右肛門嚢:肛門嚢アポクリン腺癌
手術後の経過
術後消化管運動低下に伴う嘔吐が認められるも内科治療により改善し、1週間程度みられた軟便、しぶりも徐々に良化した。
傷口自体は良好で術後2週間で抜糸した。
現在は転移の有無を確認するため定期的な直腸検査および血液検査、画像検査を行っている。
犬の肛門嚢アポクリン腺癌について
肛門嚢アポクリン腺癌は肛門周囲の悪性腫瘍の17%を占め、イングリッシュ・コッカー・スパニエル、ジャーマン・シェパード・ドッグ、アラスカン・マラミュート、ダックスフンドで発生リスクが高いと言われています。肛門嚢の腫瘍として良性のものの発生はまれであり、肛門嚢を絞って消失しない硬い腫瘤は悪性の肛門嚢アポクリン腺癌である可能性が高いとされています。
症状としては、偶発的に腫瘤が認められるだけで無症状の場合もありますが、排便時のしぶりや排便困難などがみられることや、腫瘍の影響で高カルシウム血症となり多飲多尿が認められることもあります。
転移しやすい腫瘍とされており、リンパ節への転移が最も多く、他にも肺、肝臓、脾臓、骨などへの転移が認められることがあります。
転移の有無を判断するため検査では直腸検査にて肛門嚢の腫瘤およびリンパ節を触診、レントゲン検査や腹部超音波検査、CT検査などを行います。血液検査では腫瘍に伴う高カルシウム血症がないかを確認します。
治療としては外科手術が治療の中心になりますが、検査の結果によって腫瘍のサイズや転移の有無でステージングされ、それに基づいて放射線療法や化学療法などが必要になることもあります。
肛門嚢アポクリン腺癌は転移率の高い腫瘍ではありますが、治療のタイミング、治療方法によっては長期生存が期待できる症例もあります。外科手術後も定期的な検査を行い、治療方針を相談しながら進めていく必要があります。
肛門周りの腫瘤や排便時の問題など気になることがありましたら動物病院でご相談ください。
