失明の可能性もある怖い病気!犬や猫の緑内障について解説します

緑内障とは

緑内障と白内障は似た言葉ではありますが別の病気であり、見た目も異なります。白内障は眼の「内」側に「障」害が出ることで眼が「白」くなる。では緑内障はどうでしょうか。眼の「内」側に「障」害が出ることで眼が「緑」になる?諸説ありますが、昔の方は緑内障で失明した方の眼が緑に見えたようで緑内障という名称になったそうです。ただ、実際にはそれほど緑には見えません。

緑内障は眼球内部の圧力(眼圧)が上昇することにより視神経や網膜に障害をきたし、視覚喪失をもたらす可能性のある疾患です。通常、眼圧は毛様体から産生される眼房水により一定に保たれ、眼球内を循環し、眼球外へと排出されます。詳しくはコチラもあわせてご参照ください。

眼房水は眼球内に栄養分を供給し、老廃物を眼外へ除去する役割があります。この眼房水が何らかの原因で眼球外へ排出されなくなり、眼圧が上昇し、緑内障となります。

 

緑内障の原因と分類

緑内障は、原発性緑内障続発性緑内障に分類されます。

原発性緑内障は、遺伝的な関与があるとされており、特定の犬種(柴犬、アメリカン・コッカー・スパニエル、シーズー、ビーグル、ゴールデン・レトリーバー、プードルなど)に起こりやすいとされています。その多くの原因が眼房水の排出路である隅角の問題とされています。

続発性緑内障は、ぶどう膜炎や水晶体脱臼、外傷、網膜剥離、眼内腫瘍などの原因が存在し、その結果として緑内障となります。

犬の場合、緑内障と診断された犬のうち原発性緑内障が約80%、続発性緑内障が約20%という報告があります。

一方猫の場合は、犬とは反対に原発性緑内障が約5%、続発性緑内障が約90%という報告があり、ほとんどが続発性緑内障です。

 

病期での分類では急性と慢性に分けられます。

急性緑内障は発症から間もない状態であり、急激な眼圧上昇を示します。この病態は視神経や網膜への障害が少なく、視覚の維持・回復が見込める状態です。

慢性緑内障は眼圧上昇の状態が長期間に渡り、視神経や網膜が障害を受け、視覚障害ないしは視覚喪失がある状態であり、視覚の維持・回復は見込めません。

犬の緑内障で角膜障害が生じている状態

犬の緑内障で眼内出血が生じている状態

 

症状

動物と一緒に暮らしている中でアイコンタクトは日常的に行いますので、ご家族が目の異常に気づいて来院されることがほとんどです。

緑内障の主な症状は、眼をしょぼしょぼしている、眼の表面(角膜)が濁っている、眼が赤い、眼が見えてなさそう、眼を気にしている、元気がない、顔周りを触ると嫌がるなどがあります。

このような状態を放置してしまうと、眼圧上昇により眼球自体が大きくなり、眼が大きくなったと理由でご来院することもあります。眼が大きくなっている状態(牛眼といいます)では眼は見えていないことがほとんどです。

一般的な眼圧上昇後、数時間から数日後は視覚回復の可能性がありますが、顕著な眼圧上昇が24〜72時間持続した場合には視覚回復は非常に困難と考えられています。また、片眼が緑内障になった場合、もう片方の正常な眼もその数ヶ月以内に緑内障になるリスクがあります。そのため、眼の異変に気づいた場合には緑内障を疑い、早めの受診を心がけましょう。

 

検査と診断

緑内障の診断には、視診、検眼鏡検査、眼圧検査、スリットランプ検査、眼底検査、超音波検査、隅角検査などを組み合わせて行います。

動物の緑内障の場合は眼圧検査が最も重要な検査となります。ヒトの場合ですと正常眼圧緑内障も示すことから、動物と同様に捉えることはできません。

当院で使用している眼圧検査の検査機器です。

眼圧検査で犬では25mmH g未満、猫では27mmH g未満が正常眼圧とされています。そのため、眼圧が犬で25mmH g以上、猫で27mmH g以上の場合には緑内障を疑います。眼圧は保定によって変動があるため、落ち着いた状態で、頸部を圧迫せずに眼圧検査をすることが重要です。

また、眼圧検査以外の検査を組み合わせることにより、なぜ緑内障になっているかの原因、急性なのか慢性なのかを探ることができ、それらがわかることにより治療の方針が大きく異なります。眼圧検査を含む各種検査をすることが緑内障の診断には大切と言えるでしょう。

 

治療

緑内障の治療は、視覚が残っている場合では可能な限りその視覚を維持することが目標となります。緑内障は最終的には失明に至る、難治な疾患であり、視覚が維持できても厳密な点眼による眼圧コントロールが必要となります。また、長期的な管理には外科療法が必要ですが、完治することはなく、術後も管理が必要となります。そのため、緑内障の治療はご家族と治療計画を相談した上で決定する必要があります。

緑内障の治療は内科療法と外科療法に大別され、まず緑内障と診断し、即座に開始されるのが内科療法です。

内科療法は点眼薬や内服薬、注射薬などを使用し、眼圧を下げることを目的としています。

眼圧を下げるまでに長時間要してしまうと失明のリスクが上昇するため、点眼を頻回に行い、こまめに眼圧検査を実施しながら眼圧を下げる治療を行います。眼圧降下剤と言われる点眼薬は眼房水産生抑制作用と眼房水排出促進作用のあるものを単独もしくは組み合わせて使用し、1―3種類程度の点眼薬を使用します。同時に消炎鎮痛剤やステロイド剤を使用し、炎症抑制、疼痛緩和も行います。これらの治療で眼圧が下がらない場合には浸透圧利尿剤という注射薬を使用することもあります。

外科療法は視覚の維持や回復が見込めるか見込めないかにより治療方法が異なります。

回復が見込める場合には眼房水排出促進を目的とした手術と眼房水産生抑制を目的とした手術に分けられます。続発性緑内障の場合には基礎的な原因の除去が必要であり、そちらの治療を優先して行います。

眼房水排出促進を目的とした手術には前房シャント術があり、特殊なチューブを眼内に埋め込み、眼房水の圧力を外に逃す方式です。

眼房水産生抑制を目的とした手術には毛様体凝固術があり、眼房水の産生に関わる毛様体を特殊機材で破壊することにより眼房水の産生を抑制し眼圧上昇を抑えます。

視覚の維持や回復が見込めない場合は、疼痛や違和感からの解放を目的に眼球摘出術やシリコンボールインプラント眼内挿入術やゲンタマイシン硝子体内注入術が検討されます。

 

眼球摘出術は眼球自体を摘出することにより、術後にこれ以上の眼の病気が発生しないという利点があります。欠点としては、外貌に大きな変化が生じる点です。

シリコンボールインプラント眼内挿入術は眼球の外層を形成している角膜と強膜を残したまま眼球内容物を摘出し、その部分にシリコンボールインプラントを移植する方法です。利点としては、眼の外層が維持されるため、外貌に大きな変化がありません。欠点としては、角膜や強膜といった眼の外層は残るため、角膜の傷やドライアイといった障害が出た際には治療が必要となります。

ゲンタマイシン硝子体内注入術はゲンタマイシンという抗生剤を眼内に注入することにより、眼房水産生に関わる毛様体を破壊し、眼房水産生を顕著に減少させる効果があります。しかし、術後に眼圧が低下せず症状の持続することもあり、確実性に欠けることが欠点です。

そのため、手術に対する麻酔のリスクが低い場合には確実に緑内障の問題を解消できる眼球摘出術やシリコンボールインプラント眼内挿入術が推奨されます。

 

最後に、動物の異変に気づき、受診したときには既に重症になっていることが多い病気の一つが緑内障です。些細な変化に気づき、正常時での眼圧の数値を知っておくことが重要となります。また、緑内障は点眼での治療も行いますので、日頃より眼周辺を触り、慣れておくことも重要となります。ご不安な点はいつでも病院スタッフにご相談ください。

この記事を書いた人

石井 秀延(ALL動物病院行徳院長 皮膚科学会認定医)
皮膚疾患に悩むご家族をはじめ、ご来院のみなさまにご相談していただきやすいような雰囲気づくりに努め二人三脚での治療をしています。2児の父で特に好きな犬種はプードル。日頃の運動不足解消のため暑さ寒さに負けず自転車通勤している。