隠れた病気が潜んでいることも!?犬や猫でも起こる気づきにくい出血や止血機能障害とは?

ぶつけた覚えもないのにあざができてる!なんてことありますよね。私もよくあります。

でも、それが隠れていた病気のサインかもしれません。

 

血液が止まるメカニズム

怪我などで出血した場合、止血のために血液中の因子が働きます。このシステムに異常があることを血液凝固異常と呼んでいます。

では、出血が起きて止血が起こるまでのメカニズムについてご説明していきましょう。

出血から止血まで、非常に多くの工程が関わっています。大きく分けると一次止血と二次止血に分けられます。

①一次止血

血管が破れて出血が起こると血管が収縮して傷口を小さくします。次に血液中の血小板が傷口に集まってきて血栓を作って傷口を塞ぎます。

これを一次止血(血小板血栓)といいます。

②二次止血

血小板だけの血栓だけでは止血には不安定で脆く十分な強度がありません。

そこで一次止血に引き続いて血液成分の凝固因子というタンパク質が働いてフィブリンが網状になり血小板を覆ってくれます。

そしてフィブリンと血小板が合わさって強度を得て止血が完了します。このことを二次止血(フィブリン血栓)といいます。

二次止血にはⅠ~IX(1~13)の12種類の凝固因子が関与しています(6番は無し)。

これらの凝固因子は順番に反応を起こし、最後にフィブリンがポリマー(網状)になり完了します。

さらに内因系(血管壁の損傷による出血)と外因系(空気や組織液など血管外の物質が血液にふれる出血)に分けられています。

ちなみに、血友病はこの凝固因子のうち第Ⅷ,IX 因子に異常が生じて凝固反応の流れが止まってしまい、出血が止まりにくいという病気です。

③線溶系

止血が終わったら血栓は分解されて、元の血管に戻ります。この溶けて分解されることを線溶系といいます。

止血作用で固まったフィブリンが永久に塊として体内にあると、血管が詰まってしまいます。

線溶系にはプラスミンという酵素が関わっていて、このプラスミンが活性化することでフィブリン塊が溶けて体に吸収されていきます。

 

血液凝固異常が起こる原因

止血のメカニズムについて解説をしてきましたが、これがうまく作用しなくなってしまうことがあり、それを血液凝固異常と呼びます。

血液凝固異常が起こる原因は、血液凝固因子の欠損によるもの、栄養不足・薬物の影響によるもの、感染症などによるものがあります。

 

血液凝固因子の欠損

止血のメカニズムでも説明した通り、血液凝固には様々な因子が関わっています。そのうちどれか一つでも欠損していると止血ができなくなってしまいます。

血小板減少症

一次止血としてはじめに集まる成分である血小板が少なくなる状態です。骨髄細胞で作られる血小板が少ない(骨髄腫瘍など)、血小板が使われすぎている(DICなど)、血小板が免疫疾患で破壊されすぎている(免疫介在性血小板減少症:IMTPなど)、脾臓に蓄積されすぎている(肝疾患などによる脾腫)などが原因となります。

SFTS(重症熱性血小板減少症候群)

SFTSウイルスを保有しているマダニが媒介する病気で、人にも感染することがあります。発熱や消化器症状(嘔吐下痢など)が主な症状ですが、重症化すると死に至る病気です。

詳しくはこちらをご覧ください。

 

DIC(播種性血管内凝固症候群)

悪性腫瘍や子宮蓄膿症、急性膵炎、敗血症、ショックなど、様々な基礎疾患が元となり全身に微小血栓が作られるため、止血に必要な血小板が足りなくなる病態です。

 

血友病

血友病は第Ⅷ因子、第Ⅸ因子の欠如や不足が原因となります。

 

フォンヴィレブランド病

血友病の次に多いと言われている病気で、血液凝固に必要なフォンヴィレブランド因子の欠如や不足が原因となる遺伝病です。

 

自己免疫疾患

細菌などを攻撃する抗体が、血小板を攻撃して破壊してしまう病気です。

 

殺鼠剤中毒、ビタミンK欠乏

殺鼠剤の成分であるワーファリンを摂取することで起こる血液凝固異常のこと。ワーファリンには、血液凝固に必要なビタミンKの働きを阻害する働きがある。単純にビタミンKの欠乏でも起こります。

 

抗血液凝固剤の使用

アスピリンやヘパリンという抗血液凝固剤の使用によるものです。

 

血液凝固異常の症状

血液凝固に必要な成分が欠乏、もしくは欠損していることで全身性の出血が起こりやすくなります。

見つけやすいところでは皮膚の出血です。点状出血や紫斑というあざができます。

その他に、消化管粘膜の出血により血便や下血、鼻腔内からの出血、血尿、目の中の出血や喀血、吐血も症状の一つです。

また、爪切り時に出血が止まりにくいことで気づくこともあります。

 

血液凝固異常の検査

・血液検査による貧血の確認

・赤血球凝集反応(顕微鏡での赤血球同士が結合する反応の有無)

・自己抗体の有無

・レントゲンや超音波検査

・PT(プロトロンビン時間)

・APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)

・フィブリノーゲン

・FDP

・Dダイマー など

DICの場合、早急に治療を開始しないと死に至るケースが少なくないため治療と検査を併行して行うことも多いです。

 

血液凝固異常の治療

血液凝固異常の治療は、原因疾患によって大きく変わります。

DICや急速に症状が進む疾患の場合、検査結果と確定診断が出る前に治療を開始することも少なくありません。

 

血液凝固異常の予防

DICを引き起こす病気にならないようにしましょう。例えば避妊手術をしておくことや、肥満にならないように食生活に気を付けるなども予防につながります。SFTSの関してはマダニが付かないように予防することが大事です。マダニの中にSFTSウイルスがいるかどうかは目視で確認できず、寄生してから駆虫するのではなく、寄生しないように予防することが最も重要です。

 

まとめ

どんなに気を付けていても病気になるときはあります。そして、一番大事なのはその変化になるべく早く気付くことです。血液凝固異常の疾患で最も気づきやすいのは紫斑です。

止血異常を起こす疾患には死に至るものも含まれ、ご自宅で様子を見ているうちに症状が進行してしまうこともあります。

もし、紫斑を発見したらすぐに診察を受けましょう。紫斑について詳しくはこちらをご覧ください。

この記事を書いた人

荻野 直孝(獣医師)
動物とご家族のため日々丁寧な診療と分かりやすい説明を心がけています。日本獣医輸血研究会で動物の正しい献血・輸血の知識を日本全国に広めるために講演、書籍執筆など活動中。3児の父で休日はいつも子供たちに揉まれて育児に奮闘している。趣味はダイビング、スキーと意外とアクティブ。