【獣医師が解説】猫にもエイズがあるって知っていますか?FIV感染症の症状と治療について解説します。
皆さんは猫にもエイズがあるのをご存じですか?
今回は猫のウイルス感染症の1つである猫エイズウイルス感染症の症状と治療について解説します。

荻野 (獣医師)
動物とご家族のため日々丁寧な診療と分かりやすい説明を心がけています。日本獣医輸血研究会で動物の正しい献血・輸血の知識を日本全国に広めるために講演、書籍執筆など活動中。3児の父で休日はいつも子供たちに揉まれて育児に奮闘している。趣味はダイビング、スキーと意外とアクティブ。
FIV感染症とは?
猫エイズウイルスの正式名称は「猫免疫不全ウイルス(Feline immunodeficiency virus: FIV)」といい、FIVに感染することをFIV感染といいます。
FIVの特徴
FIVはウイルスとしての働きだけでなく、プロウイルスという形態になることがあります。
プロウイルスはウイルスの「スパイ」のような存在で、ウイルスが感染して猫の体に入ったあとで細胞の中に隠れています。プロウイルスは細胞の中に隠れてFeLVの情報(DNA)を保管しています。ウイルス感染はしていないように見えてもウイルスのDNAが細胞内に取り込まれていることで、ウイルスが増えることがあります。
このようにプロウイルスとして感染していたり、ウイルス自体があまり活動せずに隠れて感染していることを持続感染といいます。
通称名として「猫エイズ」と呼ばれ、ヒトのエイズウイルスとよく似た構造をしていますが、人にうつることはありません。また、人のエイズウイルス(ヒト免疫不全ウイルス)が猫にうつることもありません。
FIVの感染経路
主にケンカによって唾液中のウイルスが傷を介して感染するといわれており、日本では室内と野外を自由に出入りできる猫の15~30%がFIVに感染しているという報告があります。またオスの方がメスの2倍以上も感染率が高いともいわれています。
感染が成立したウイルスは、白血球であるリンパ球、マクロファージなど、免疫を司り身体を守る細胞に感染しウイルスを産生、免疫機能を破壊してしまいます。
感染が成立すると排除は不可能であるといわれており、ウイルス保有個体(キャリア)として生涯生活していく必要があります。

FIV感染症の症状
FIV感染症には特有の症状はありません。
「猫免疫不全ウイルス」という名の通り、免疫機能が正常に働かないことによって様々な症状を引き起こします。
病態としては臨床症状により、5つに分類されています。
- 急性期(Acute phase:AP)
- 特にFIV感染と断定できないような非特異的症状である発熱、リンパ節腫大、白血球減少、貧血、下痢などの症状がみられます。感染が成立してから1~2ヶ月で体内のFIV抗体が検出されるようになります。
- 無症候キャリア期(Asymptomatic carrier:AC)
- 名前の通り、症状がない期間です。無症状のまま一生を終える猫もいます。
- 持続性リンパ節腫大期(Persistent generalized lymphadenopathy:PGL)
- 全身性のリンパ節腫大の症状がみられる期間です。
- エイズ関連症候群期(AIDS-related complex:ARC)
- この期間に入り免疫異常にともなった症状である口内炎や歯肉炎、上部気道炎(いわゆるネコ風邪)、消化器症状(嘔吐や下痢)、皮膚病などが症状としてあらわれるようになります。
- 後天性免疫不全症候群期(Acquired immunodeficiency syndrome:AIDS)
- 本格的に免疫不全の症状が現れ、口内炎や歯肉炎、日和見感染などが起こりやすくなります。口腔内に潰瘍ができたり、歯肉が腫れあがったり、痛みによる流涎(よだれ)、口臭も目立つようになります。ご飯を食べられないことや、下痢により栄養を十分に摂取できず痩せていき、やがて病気に対する抵抗力が落ちていくのが特徴です。さらに、貧血や汎白血球減少症、神経症状、腫瘍なども症状として現れることがあります。
FIVと同様に咬傷などによって感染する猫の感染症であるFeLV(猫白血病ウイルス)と比較すると、感染していても発症せずに天寿を全うする猫もいます。
悲観的にならずにストレスのかからない生活環境を整えてあげることが重要です。
猫白血病ウイルス(FeLV)についてはこちらで詳しく解説しています。
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FIV感染症の診断
簡易検査キットを用いた血液検査によって診断されます。数滴の血液で院内で検査がすることができ、10~15分程度で実施することができます。
この検査キットは抗体を検出するものであるため、検査の時期に注意が必要です。
猫はウイルスに感染してから抗体を検出できるまでに1~2か月程度かかります。この期間での検査結果は陰性であっても、陽性の可能性があることがあります。
また子猫の場合、母猫からの移行抗体をもっているため生後6か月齢程度までは擬陽性の結果が出ることもあります。そのため、血液検査で最適と考えられる時期は、保護してから2ヵ月以上、かつ生後6ヵ月齢以降です。

FIV感染症の治療
前述したように、一度感染が成立するとウイルスを完全に排除することは困難は困難です。
ウイルスに対して抗ウイルス薬を使用する治療はありますが、実際には使用されることはほとんどなく、発症した症状を緩和させる治療(対症療法)を行います。
免疫機能が低下することで起こる二次感染に対する治療が中心で抗生剤やステロイド、消炎鎮痛薬、抗真菌薬などを使用します。また、免疫機能の低下により、回復も遅くなる傾向があります。
FIV感染症の予防
FIV感染猫との接触をさけ、完全室内飼育をすることが一番の予防です。
FIVはケンカや咬傷などによって直接激しく接触しなければ、基本的にうつることはありません。
保護猫など、感染の可能性がある子を飼育する際は陰性を確認してから同室に入れる、食器や生活空間を分けて過ごすなどを心がけましょう。
2008年からFIVに対する不活化ワクチンが販売されていますが、製造中止になるなどして使用できなくなることから現在は推奨されていません。
猫のワクチン接種についてはこちらで解説しています。
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まとめ|FIV感染症
FIV感染症は感染すると必ず発症するというわけではなく、普通の猫と同じように生活し、長生きできるケースもあります。
ストレスをかけず、愛情をたっぷり受けられる環境で生活することで発症を遅らせたり防ぐこともできるかもしれません。
猫が外に出るとFIV以外の他の感染症にかかる危険性もあります。寄生虫や交通事故、いたずら、誘拐など命に係わる事態にもなりかねません。愛猫の健康と安全を考慮して完全室内飼育を心がけましょう。
気になることがあればお気軽にスタッフにお尋ねください。
