【獣医師が解説】「血尿=膀胱炎」とは限らない!犬の膀胱・尿道にできる移行上皮癌について解説します

犬の血尿や頻尿といった症状が見られたとき“膀胱炎”を想像する方が多いのではないでしょうか。もちろん膀胱炎の症状として認められることもありますが、すべてが膀胱炎とは限りません。そこで今回は血尿や頻尿の症状がみられる膀胱や尿道にできる腫瘍、移行上皮癌について解説します。

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南(獣医師 外科部長)

南(獣医師 外科部長)

日本獣医がん学会、日本獣医麻酔外科学会に所属し外科部長として多くの手術症例を担当。犬猫からよく好かれ診察を楽しみにして来てくれることも多く、診察しながらずっとモフモフして癒してもらっていることも。見かけによらず大食漢でカップ焼きそばのペヤングが好き。1児の父であり猫と一緒に暮らしている。

移行上皮癌とは 

移行上皮癌は主に膀胱や尿道に発症し、犬の膀胱腫瘍の中で多く認められる悪性の腫瘍です。

尿路系を構成する移行上皮から発生します。犬では膀胱三角(尿管の開口部と尿道を結んだ部分)に好発し、尿の通過や排出に支障をきたす位置に形成されることが多い腫瘍です。移行上皮癌は悪性の腫瘍であり、リンパ節や肺、骨などにも転移することがあります。

移行上皮癌の発症メカニズムと関連因子

明確な原因は特定されていませんが、以下の要因が発症リスクを高めると考えられています。

遺伝的素因

  • ・スコティッシュテリア
  • ・ビーグル
  • ・シェットランドシープドッグ
  • など

上記に挙げていない犬種でも発生はあるため、高齢犬の排尿のトラブルには注意が必要です。

環境因子

  • ・肥満
  • ・中~高齢犬
  • ・芝生管理用農薬や除草剤への曝露
  •  (犬が除草剤処理された土壌と接触し、手足や毛をなめるグルーミング行動を通じて有害物質を体内に取り込む)
  • ・慢性炎症性膀胱疾患
  • など

臨床症状と特徴

移行上皮癌の症状は排尿の問題を呈することが多いです。

  • ・血尿
  • ・頻尿
  • ・排尿困難
  • ・排尿痛
  • ・排尿時の姿勢異常、排尿時にいきむ
  • ・粗相
  • など

移行上皮癌でみられる症状は尿路感染症や結石症でも類似した症状を示すため、しっかりと検査をして腫瘍性疾患の可能性を視野に入れた検査が必要です。

血尿に関してはこちらもご覧ください。

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さらに尿の排出ができなくなってしまうと急性腎不全となり、食欲不振、元気消失、嘔吐など全身的な症状が見られます。

検査・診断

臨床症状から尿検査、膀胱・尿道の超音波検査を行った上で腫瘍が疑わしい場合、全身状態の把握のため血液検査、画像検査、診断のため組織生検などが行われます。

尿検査・尿細胞診

移行上皮癌のがん細胞は尿中に排出されると、尿沈渣で検出されることもあります。また、犬ではBRAF遺伝子変異検査なども利用されており、尿中の細胞から診断の一助となります。尿検査についてはこちらもご覧ください。

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画像診断

腫瘍があるかは膀胱の中を超音波検査によって観察することが大切です。

腫瘍が疑われるような腫瘤を見つけた場合、尿道カテーテルを挿入して組織を吸引して採取します。さらに、超音波検査やレントゲン検査によって腰下リンパ節の腫大、前立腺肥大、腰椎とはじめとした骨への転移などがないかどうか評価します。必要に応じて、CT検査や造影検査を行うこともあります。

機器を所有している動物病院は全国でも限られますが、膀胱内の変化を目視で確認するための検査として膀胱内視鏡検査を行い、浸潤範囲の確認、病変の組織を採取ができると診断精度が上がります。

組織生検

上記のような尿道カテーテルや膀胱内視鏡下による組織生検によって採取した組織を観察することで診断を行います。

治療 

移行上皮癌が発生することの多い膀胱三角部は組織に血液を供給する血管や神経があったり、腫瘍自体が尿道まで浸潤していることも多いため、手術自体が難しい腫瘍です。

治療はどれか単独ではなく、様々な方法を組み合わせてそれぞれの犬や猫にあった治療が行われます。また、手術を行わず緩和目的の内科治療(抗癌剤や分子標的薬)のみを選択することや、手術や抗癌剤治療を行わず対症療法のみを選ぶという選択肢もあります。 

外科治療

  • 膀胱部分切除
  • 膀胱三角から離れたところに発生した腫瘍を部分的に切除する手術
  • 膀胱全摘出と尿路変更(尿迂回術)
  • 膀胱を全て摘出し、膀胱を通さない尿路を作り直す手術

膀胱全摘出は他の治療法より根治の可能性は高くなりますが、手術侵襲は大きく、多くの場合で術後におむつが永続的に必要になります。移行上皮癌は肉眼的に見えているよりも広い範囲にがん細胞が拡がっていることも多く、手術後に再発や転移を起こすことがあります。そのため術後に内科治療も併用されることが多いです。

また、尿の排泄経路が閉塞している症例では排泄経路を確保するために膀胱瘻チューブ(膀胱にチューブを設置し、尿を排出させる)やステントの設置(狭くなった尿路を広げる)を行います。

内科治療

  • 非ステロイド性鎮痛薬(NSAIDs)
  • 本来は鎮痛効果を目的に使用される薬ですが、移行上皮癌において腫瘍細胞の増殖を抑える効果もあるため抗腫瘍効果を期待して使用されます。
  • 化学療法
  • 再発や転移の可能性が高い腫瘍のため、抗がん剤を使用した化学療法が行われます。ミトキサントロン、ビンブラスチン、クロラムブシルや分子標的薬であるラパチニブなどが使用されます。

放射線治療

膀胱や付近のリンパ節に対して放射線を照射することで腫瘍細胞を直接破壊し、腫瘍の進行を抑えます。

犬の移行上皮癌の予後

移行上皮癌は完治が難しい腫瘍ですが、適切な治療をすることにより生存期間を延長することを見込むことができます。

浸潤性・転移性が高い悪性腫瘍で、診断時点で約20%の症例ですでに転移巣が存在しているといわれています。治療をしなかった場合、中央生存期間(生存している個体の割合が50%になる期間)4〜6ヶ月、治療をすると6ヶ月〜18ヶ月以上と言われています。

尿管開口部の閉塞が起こり、尿が膀胱に到達することができなくなると、水腎症となり腎機能が低下します。また、膀胱内の尿が尿道閉塞により排泄できないと膀胱が拡張し逆流性に腎不全を引き起こします。急性腎不全になると数日で命を落とすケースもあります。

まとめ

犬の移行上皮癌では多くの場合、発見時にはすでに進行しているケースが少なくないため、早期発見と適切な治療が大きくカギを握る腫瘍です。

排尿時の気になる症状がある場合は早めに動物病院を受診しましょう。

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