しつこい痒みでイライラ!犬のアトピー性皮膚炎って何?

犬で、動物病院を来院する理由で最も多いのは皮膚科(耳科を含む)と言われています。

その皮膚科の中で多い皮膚トラブルが皮膚炎で、皮膚に炎症を起こして痒みが出ます。

そんな皮膚炎の中でも最も多いのは犬アトピー性皮膚炎です。

 

犬アトピー性皮膚炎とは?

人で、アトピーという言葉は有名ですよね。

正しくはアトピー性皮膚炎という名称であり、犬のアトピーは人のアトピー性皮膚炎と症状や発症部位などが似ていることから、犬アトピー性皮膚炎という名称が付けられています。

遺伝的な要因が関与しているとされており、長期間にわたるケアが必要となります。

痒みを生じる原因はハウスダストやカビ、花粉などの環境アレルゲンに対するアレルギー反応でアレルゲンが皮膚表面から侵入してアレルギー反応を起こすことで痒みが生じます。

一般的な皮膚のバリア機能を備えていれば環境アレルゲンの侵入を防ぐことができますが、犬アトピー性皮膚炎の皮膚はバリア機能が低下し、容易に皮膚の中に侵入します。

皮膚表面の角質層という部分には保湿成分であるセラミドが存在し皮膚に潤いを保っています。

犬アトピー性皮膚炎の皮膚はこのセラミドが不足することで皮膚から水分が出てしまい皮膚バリア機能が低下します。

犬アトピー性皮膚炎は、このような皮膚バリア機能も大きな発症要因となりますが、それ以外にもさまざまな問題が複雑に絡み合っている疾患とされています。

皮膚の常在菌の繁殖や皮膚の過敏反応、精神的要因などが挙げられ、治療は1つの要因に対してではなく、多角的な治療を行うことが重要となります。

 

発症しやすい犬種

日本で多く見られるのが柴犬であり、他にもフレンチ・ブルドッグ、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア、トイ・プードル、ダックスフント、ゴールデン・レトリバー、ラブラドール・レトリバーなどがいます。

 

症状・発症部位・発症年齢

主な症状は、痒み行動(舐める、噛む、引っ掻く、擦り付けるなど)、赤み、脱毛であり、重症化すると皮膚が分厚くなる苔癬化、色が黒く変色する色素沈着などがあります。

症状が出やすい部位は眼周り、口周り、耳、脇、内股などであり、その病変は広範囲にわたることもあります。

発症年齢は6ヶ月齢から3歳齢と言われており、このことからも遺伝的な要因が関っていると考えられています。

もし7−8歳以降の中高齢から痒み症状が出始めた場合に犬アトピー性皮膚炎ではなく別の疾患かもしれません。

 

診断

犬アトピー性皮膚炎を診断するための特定の検査はなく、膿皮症、マラセチア皮膚炎、食物アレルギー、毛包虫症、疥癬やノミなどの外部寄生虫症などの犬アトピー性皮膚炎の症状に似た疾患の除外が必要になり、犬種や症状や発症部位などから総合的に判断し、犬アトピー性皮膚炎と診断します。

アレルギー検査は反応するアレルゲンを見つける有用な検査となりますが、それが痒みの原因となっているかは分からないため、診断や治療の補助のために利用されます。

また、診断基準として下記の項目にいくつ該当するかを確認する必要があります。

①3歳以下での発症

②屋内飼育

③ステロイド剤で痒みが治る

④繰り返すマラセチア皮膚炎

⑤前肢に症状がある

⑥耳に症状がある

⑦耳の縁には症状がない

⑧背中から腰部に症状がない

この8項目中5項目以上該当する場合には犬アトピー性皮膚炎である可能性が高いと言え、診断する上で重要なものとなります。

さまざまな情報から総合的には診断する犬アトピー性皮膚炎では治療が長期にわたることもあることから、症状が軽い段階での診断が早期の症状の緩和に役立つと考えられています。

 

治療

犬アトピー性皮膚炎は様々な要因が複雑に絡んでいるため、犬アトピー性皮膚炎が単独で起きているのではなく、他の皮膚疾患も併発していることは少なくありません。

そのため、治療は「飲み薬のみで実施しましょう」ではなく、複数種類の治療を組み合わせて多角的に治療プランを組み立てる必要があり、動物やご家族にとって負担が少ない治療が推奨されます。

治療のポイントはアレルゲンの回避、スキンケア、痒みを抑える、併発疾患のコントロールであり、これらをバランスよく治療することで上手な痒みのコントロールが可能となります。

〈アレルゲンの回避〉

犬アトピー性皮膚炎の多くが屋内ダニに対してのアレルギー反応を有すると言われており、

このアレルギー反応は完全に無くすことが現実的に不可能なため、アレルゲンの回避・減少に効果的とされているのが飼育環境の清掃やダニ対策、ノミダニ予防薬、空気清浄機の設置です。これらを実施することにより、皮膚からのアレルゲンの侵入を軽減し、痒みを軽減することができます。

〈スキンケア〉

スキンケアはシャンプーと保湿が中心であり、後述する飲み薬を減らすための一助となり、犬アトピー性皮膚炎を治療する上で重要な役割を果たします。

まず、シャンプーは体表についた環境アレルゲンを洗い流すのにとても有効的であり、皮膚の状態に合わせたシャンプー剤の選択が必要となります。

皮膚からの水分蒸散が多く皮膚バリア機能の低下が認められる皮膚には刺激が少なく、保湿成分が含まれたシャンプーが推奨されますが、同時に感染症を伴っている場合には殺菌系シャンプーを使用することもあります。

次に保湿は、症状の軽い場合にはシャンプーに含まれる保湿成分でも有効ではありますが、より保湿が必要な皮膚コンディションの場合には犬用の保湿剤がより高い効果を発揮します。

人でも皮膚が乾燥すると痒みが出るように、保湿をすることで痒みの軽減につながるとされています。

〈痒みを抑える〉

主にお薬の使用が効果的です。

お薬には内服薬、注射薬、外用薬がありそれぞれ特性が異なるため組み合わせて治療することもあります。

 

内服薬にはステロイド剤、免疫抑制剤、分子標的薬、抗アレルギー剤などがあります。

ステロイド剤は副作用が怖いと思われるご家族も多いかと思いますが、高用量で長期間使用せず適切な量を服用すれば副作用はあまり問題になることはありません。

免疫抑制剤、分子標的薬、抗アレルギー剤はステロイドの代わり、もしくはステロイドと一緒に使用することでステロイドの使用量を少なくすることが出来るものであり、これらの薬剤はより副反応の出にくい薬剤でもあります。

特に分子標的薬はステロイドと同等な効果がありながらも副反応が非常に少なく、犬アトピー性皮膚炎で最も多く使われているお薬の一つと言えるでしょう。

 

注射薬には減感作療法やモノクローナル抗体治療薬や犬インターフェロンγといったものがあり、これらの治療は副反応が非常に少なく、安全性が高いとされています。

これら注射薬も他の薬剤と一緒に使うことにより、それぞれの薬剤をより少ない量で使用できると考えられますので、その時の症状や使用している薬剤に合わせて使用することを推奨します。

外用薬には軟膏、ローション、スプレーといった様々なタイプのものがあります。

局所の治療に効果的であり、全身的な副反応はほとんどありませんが、内股などの皮膚がもともと薄い部分での長期にわたる外用薬塗布は注意が必要であり、長期にわたり治療しているにも関わらず痒みが改善しない場合には獣医師にご相談ください。

〈併発疾患のコントロール〉

犬アトピー性皮膚炎はスキンコンディションが低下しているため、皮膚表面の常在菌が繁殖し、膿皮症やマラセチア皮膚炎などの感染症が併発して起きていることがあり、その場合は痒みや炎症がさらに強く、犬アトピー性皮膚炎の治療のみでは痒みをコントロールできない場合もあります。

膿皮症やマラセチア皮膚炎は特に暖かい季節で発症しやすく、これら併発疾患に対しては適切なシャンプーを使用し、菌に合わせた内服薬の使用を検討する必要があります。

 

犬アトピー性皮膚炎の管理には様々な組み合わせがあるため、動物自身の性格、症状、ご家族のご要望を考慮して組み立ていく必要があります。

長期にわたる管理が必要な犬アトピー性皮膚炎の治療にはご家族のご協力が不可欠です。

動物にもご家族にもご負担の少ない治療を見つけ、一緒に、上手に管理をしていきましょう。なお当院には皮膚科の認定医がおりますのでお困りの際にはお気軽にご相談ください。

治療前 脱毛や赤みが見られました

治療後 痒みが抑えられ毛が生えそろいました

 

この記事を書いた人

石井 秀延(ALL動物病院行徳院長 皮膚科学会認定医)
皮膚疾患に悩むご家族をはじめ、ご来院のみなさまにご相談していただきやすいような雰囲気づくりに努め二人三脚での治療をしています。2児の父で特に好きな犬種はプードル。日頃の運動不足解消のため暑さ寒さに負けず自転車通勤している。