犬の前十字靭帯断裂
この記事の内容
当院で実施した外科症例について紹介します。
今回は前十字靭帯断裂に対して外科手術を行った症例です。
※術中写真が表示されますので苦手な方はご注意ください。

和田(獣医師)
動物好きなおばあちゃんの影響で自分自身も動物に関わる仕事がしたいと思うようになり獣医師の道へ。より良い獣医療を提供できるように日々技術や知識をどんどん吸収して能力をアップデート中。短い休みの日でも体重 6 キロの愛猫〝チビ〟に会うため実家へ駆けつけています。
症例情報
プロフィール
犬 雑種 雄 6歳3か月
来院理由
3-4日前から跛行がみられ、鎮痛剤服用しても症状が改善しない
既往歴
なし
検査
触診の際に脛骨圧迫試験で左脛骨の前方変位、脛骨前方引き出し試験で左脛骨の前方変位を認める
膝のレントゲン検査で左脛骨の頭側への変位を認める


診断
左後肢前十字靭帯断裂
外科手術
前十字靭帯断裂の治療として関節包外術を実施
1.膝関節外側からアプローチして筋膜および関節包を切開後、前十字靭帯の断裂を確認

2.残存した靭帯を除去後、半月板の損傷を確認し、損傷部分を切除

3.膝関節内の洗浄し関節包を閉鎖、脛骨粗面にワイヤーで孔を作成する

4.2本のファイバーワイヤを通し、締結。閉創前に伸展位/屈曲位などでドロワーサインの消失を確認
手術後の経過
5日間入院し、入院中は包帯での固定とアイシング実施して退院後は家での安静を指示
術後1週間は患肢をかばう様子あり、術部の変化はないため安静継続
術後2週間で患肢をかばう様子なし。徐々に運動制限の解除と家で患肢に負荷をかけるリハビリに加え体重の管理や関節へのサプリメントの服用を開始
術後1か月で患肢のレントゲン撮影し、経過良好
前十字靭帯断裂について
前十字靭帯とは膝関節内で大腿骨と脛骨をつなぐ靭帯の1つであり、脛骨の前方へのズレ・ねじれや膝関節の過度の伸展を防ぐ働きを持っています。
加齢によって靭帯の強度が脆弱化したり、関節炎による炎症が要因となる断裂が多いとされています。また、肥満や膝蓋骨脱臼などの基礎疾患は慢性的な膝関節への負担となります。左右どちらかの靭帯断裂が生じた症例の多くが、高い割合で1-2年以内に反対側の靭帯断裂を生じやすいと言われています。
身体検査とレントゲン検査で膝関節の状態を確認します。身体検査では脛骨が前にずれるかどうかを検査しますが、筋肉の緊張が重度な子は正当な評価ができない場合もあります。

レントゲン検査では靭帯の評価はできません。そのため脛骨の前方変位・関節液貯留や炎症の程度を評価します。
前十字時靭帯断裂に併発しやすい疾患が半月板損傷です。半月板とは膝関節内の構造物で、衝撃を吸収するクッションのような働きを持っています。しかし半月板損傷の診断は身体検査やレントゲン検査ではできないため手術するときに実際見ることで損傷の有無を判断します。
内科治療の場合、鎮痛薬の使用やケージレストを用いて実施することで症状の緩和が見られることはあります。しかし内科治療のみだと膝関節の不安定性が残ったり、患肢ではない反対の肢に負重がかかるため注意が必要です。外科治療の場合は体重や状態、活動性によってその子に合った術式を選択します。また膝関節内で靭帯の断裂程度と半月板損傷が併発しているか確認します。
前十字靭帯断裂の外科手術を行う場合、当院では関節包外制動術(ラテラルスーチャー)を行っています。これは骨に小さな穴をあけて特殊な糸を通し膝関節の外側で固定することで、脛骨が前にずれるのを抑える方法です。

他に機能安定化を図るTPLOといった他の術式もあります。TPLOは糸で支えるのではなく脛骨の接触面の角度を変えることで脛骨の変位を防ぐ方法です。
(TPLOは特殊な器具が必要となるため2026年時点で当院では実施しておりません。)

つまり関節包外制動術は【糸で外から支えて安定化させる】、TPLOは【骨の接触面をかえて安定化させる】という違いがあります。
術後は炎症や疼痛の程度を定期的に確認しつつ、滑りにくい床にするなど生活環境の整備や太りすぎない食事管理が必要です。
前十字靭帯は突然の発症もありますが実際には少しずつ靭帯が弱くなり進行していることがほとんどです。そのため歩行の変化や足を痛がるなど少しでも変化があればまずはご相談ください。